傷病手当金の審査請求・不服申し立て

傷病手当金-社会保険審査会裁決例

平成16年(健)第261号  平成17年6月30日裁決

             主      文
甲社会保険事務所長が、平成16年3月26日付で、再審査請求人に対し、平成15年11月1日から同年12月5日までの期間につき健康保険法による傷病手当金の支給をしないとした処分を取り消す。

             理      由
第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。
第2 再審査請求の経過
1 請求人は、右鼠径ヘルニア(以下「当該傷病」という。)の療養のため、平成15年10月10日から同月31日までの期間につき健康保険法による傷病手当金(以下、単に「傷病手当金」という。)の支給を受けたが、引き続き同年11月1日から同年12月5日までの期間(以下「本請求期間」という。)についても労務に服することができなかったとして、平成16年1月8日(受付)、甲社会保険事務所長に対し、傷病手当金の支給を請求した。
2 甲社会保険事務所長は、平成16年3月26日付で、請求人は、本請求期間中労務に服することができなかったとは認められないとの理由により、傷病手当金を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服とし、〇〇社会保険事務局社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し再審査請求をした。
第3 問題点
1 健康保険法(以下「法」という。)第99条の規定によれば、被保険者が療養のため労務に服することができないときは、労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金の支給を受けることができる。
2 本件の問題点は、請求人が本請求期間中、当該傷病の療養のため労務に服することができなかったかどうかということである。
第4 審査資料
 「(略)」
第5 事実の認定及び判断
1 上記審査資料によれば、次の事実を認定することができる。
⑴ 請求人は、株式会社Cに雇用されて清掃業務に携わっていたところ、平成15年9月26日、○○市立B病院(以下「B病院」という。)を受診して当該傷病と診断され、同年10月7日、同病院に入院して同月9日手術を受け、同月16日、軽快して退院となった(資料1、同2-1及び同3)。
⑵ 平成15年10月29日、B病院において退院後初めての外来診療を受けたが、手術創部は、異常を認めず、完全に治癒していた(資料2)。
⑶ 請求人は、本請求期間中、当該傷病につき診療を受けていない(資料1)。その理由について、B病院外科・有○裕○医師(以下「有○医師」という。)は請求人の都合によるものである(資料2-1)と述べるのに対し、請求人は、同医師から通院の必要はないと言われていたから自宅療養の指示があったものと考えて自宅療養をしていたものであると申し立てている(再審査請求書)。
⑷ 請求人は、平成15年12月6日から出勤したが、同月中もB病院を受診しなかった(資料3及び審査請求書中の陳述)。
⑸ B病院川○成○医師(以下「川○医師」という。)は手術直前の平成15年10月8日の時点において、また、有○医師は、退院後最初の来診があった同月29日の時点において、それぞれ今後約1か月の安静・加療を要する見込みである旨の診断書を作成している。さらに、有○医師の前記診断書には、仕事復帰は12月8日位からが望ましい旨の記載がある(以上につき資料4)。また、同医師は、本件傷病手当金請求書の医師意見欄において本請求期間を労務不能期間としているほか、当審査会委員長及び甲社会保険事務所長の照会に対し、請求人の場合、手術に際して人工膜(メッシュ)により腹壁脆弱部を補強しているので下腹部に緊張のかかる重労働に就くことは不可であり、その業務内容がハードなものであるところから見て、一定期間の自宅療養は必要であったと考える旨を述べている(資料2-3及び同6)。
⑹ 株式会社Cは、甲社会保険事務所長の照会に対し、請求人が従事していた業務は競艇場の場内清掃(拘束9.5時間、休憩2.5時間。1か月間の休暇9日)であり、最大で15kg前後のごみ袋を持つことのある業務である旨回答している(資料5)。
2 以上に認定したところに基づいて、本件の問題点について判断する。
請求人が本請求期間中就労しなかったのは、前記のような有〇医師の診断書を得たので、前記のような業務内容にも鑑み、就労するのは療養上好ましくないと考えたことによるものと推察される。請求人の当該傷病による障害の状態を客観的に見ると、手術後1週間で軽快退院し、更に約2週間を経た後の来診の際も手術創は完全に治癒した状態にあったというのであるから、当該傷病の一般的な性状にも照らせば、この段階で、自宅静養を含めて療養の必要はなくなったものと見る余地もないではないが、前記のような有○医師の見解及び請求人の業務内容に照らせば、請求人が本請求期間中就労を手控えたのは療養上合理的な選択であったと認めるのを相当とする。
そうすると、本請求期間につき、療養のため就労不能の状態にあったとは認められないとして、傷病手当金を支給しなかった原処分は妥当でなく、これを取り消すべきである。
以上の理由により、主文のとおり裁決する。

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