傷病手当金の審査請求・不服申し立て

代理・代行による審査請求事件~容認事例~

平成28年2月24日決定  〇〇厚生局社会保険審査官

             主      文
〇〇健康保険組合理事長が、審査請求人に対し、平成27年12月15日付で行った後記第2の2記載の処分は、これを取り消す。

             理      由
第1 審査請求の趣旨
審査請求人(以下「請求人」という。)の審査請求の趣旨は、健康保険法(以下「法」という。)による傷病手当金(以下、単に「傷病手当金」という。)の支給を求めるということである。
第2 審査請求の経過
1 請求人は、うつ状態(以下「当該傷病」という。)の療養のため労務に服することができなかったとして、平成27年8月1日から同月31日までの期間(以下「請求期間1」という。)、平成27年9月1日から同月30日までの期間(以下「請求期間2」という。)、平成27年10月1日から同月31日までの期間(以下「請求期間3」という。)、平成27年11月1日から同月30日までの期間(以下「請求期間4」といい、請求期間1ないし請求期間4を併せて「本件請求期間」という。)、いずれも労務に服することができなかったとして、請求期間1につき平成27年9月16日、請求期間2につき同年10月5日、請求期間3につき同年11月5日、請求期間4につき同年12月8日の各受付日で、〇〇健康保険組合に対し、傷病手当金の支給を請求した。なお、請求人は、平成27年8月28日付で健康保険の被保険者資格を喪失している。
2 〇〇健康保険組合理事長(以下「保険組合理事長」という。)は、平成27年12月15日付で、請求人に対し、請求期間1については、8月は2回処方せんが交付されたが薬局で薬を受け取っておらず、服薬の指示に従って療養をしてしたとは認めがたいため、法第119条(保険給付の一部制限)に該当するとして、傷病手当金を不支給とする旨の処分(以下「処分1」という。)をした。
また、保険組合理事長は、同日付で、請求期間2ないし請求期間4については、法第104条(資格喪失後の継続給付)に該当しないためとして、傷病手当金を不支給とする旨の処分(以下「処分2」といい、処分1と併せて「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服として、平成28年1月18日(受付)、当審査官に対し、審査請求をした。
第3 問題点
1 傷病手当金の支給については、法第99条第1項に「被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金として、…(中略)…を支給する」と規定されている。また、資格喪失後の傷病手当金の継続給付については、法第104条に「被保険者の資格を喪失した日の前日まで引き続き1年以上被保険者であった者であって、その資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる。」と規定されている。
そして、保険給付の制限については、法第119条に「保険者は、被保険者又は被保険者であった者が、正当な理由なしに療養に関する指示に従わないときは、保険給付の一部を行わないことができる。」と規定されている。
2 本件の場合、保険者組合理事長が行った原処分に対し、請求人はこれを不服とし本請求期間について傷病手当金の支給を求めているのであるから、本件の問題点は、原処分が法令および関係通知に照らして、適法かつ妥当であるかどうかである。
第4 審査資料
  「(略)」
第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 前記認定された事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
⑴ 保険給付の制限については、法第119条に「保険者は、被保険者又は被保険者であった者が、正当な理由なしに療養に関する指示に従わないときは、保険給付の一部を行わないことができる。」と規定されており、その取扱いについては、昭和26年5月9日付保発第37号各都道府県知事あて厚生省保険局長通知(以下「保険局長通知」という。)が発出されている。保険局長通知によると、同条の規定の趣旨とするところは、被保険者をして適正な保険診療を受けさせることによって速かに傷病治ゆの目的を達成する指導的理念に基くと同時に、被保険者が療養の指揮に従わないために給付費の増嵩を招来し、他の被保険者に対し不当な負担を生ずることを避けんとするものであるから、同条の規定による保険給付の一部を制限する場合…、傷病手当金の一部制限については、療養の指揮に従わない情状によって画一的な取扱をすることは困難と認められるが、船員保険法第54条の規定を参考とし、制限事由に該当した日以後において請求を受けた傷病手当金の請求期間一月について、概ね10日間を標準として不支給の決定をなすこと、そして、療養の指揮に従わない事実が再度生じた場合には、療養の給付又は傷病手当金の一部制限措置を繰り返すこととするが、更に反覆累行する場合においては、制限期間を加重すること、…とされている。
⑵ 本件の場合、保険組合理事長は、請求期間1について、不支給理由を、「8月は2回処方せんが交付されたが薬局で薬を受け取っておらず、服薬の指示に従って療養をしていたとは認めがたいため、不支給とした。」としていることから、療養担当者の療養の指示、およびその指示に対する請求人の療養状況について検討する。
傷病手当金請求書によると、傷病名は「うつ状態」とされ、診療実日数、及び外来診療日は「8月6日及び8月11日の2日間」、傷病の主たる症状は「不安、抑うつ気分、意欲低下、不眠があり」、症状経過は「服薬により以前より軽快してきている」、治療内容は「薬物療法」で、療養の指示は「規則正しい通院、服薬を指示している」とされていて、療養指導者は、これらの症状のため、平成27年8月1日から同月31日までの31日間については、労務不能であると意見している。
また、診療報酬明細書によれば、請求人は平成27年8月にうつ病(主)及び神経性不眠症により2日診療を受け、再診料、通院精神療法(30分未満)及び処方せん料が算定されていると認められるが、平成27年8月分の調剤明細書は見当たらず、請求人の回答書によると、当該組合からの「…調剤明細書の到着を待っておりましたが、現時点で確認できておりませんので、8月(6日、11日)に処方されたお薬を受け取られた薬局名と連絡先をお答えください。…」との照会に対し、請求人は、「本来、お薬を受け取るべきでしたが、7月処方分の薬が余っていたため、受け取ることなく過ごしておりました。申し訳ありません。…」と回答していることから、請求人が療養担当者の療養の指示に従っていないことは明らかであり、前述の保険局長通知による「療養の指示に従わないとき」とするのが相当である。
しかしながら、法第119条には「…保険給付の一部を行わないことができる。」と規定され、傷病手当金の一部制限については、船員保険法の規定を参考とし、制限事由に該当した日以後において請求を受けた傷病手当金の請求期間一月について、概ね10日間を標準として不支給の決定をなすこととされているところ、保険組合理事長は、「服薬の指示に従って療養をしてしたとは認めがたいため」として、請求期間1の全部について傷病手当金を支給しないとしているが、不支給事由としては極めて根拠に乏しく、法令及び関係通知に照らし、適法かつ妥当ではないと言わざるを得ない。
そして、被保険者情報によれば、請求人は、平成27年8月28日に健康保険の被保険者資格を喪失しており、療養担当者は、傷病手当金請求書の療養担当者意見欄において、当該傷病の症状により請求期間2、請求期間3及び請求期間4についても、労務不能であったとしており、審査資料の範囲において、請求人が法第104条の「…その資格を喪失した際に傷病手当金…の支給を受けていたもの…」に該当しないとする事実は見当たらず、保険組合理事長が、法第104条に該当しないため傷病手当金を支給しないとした不支給事由についても、適法かつ妥当であるとは認め難い。
したがって、本請求期間については、法令及び関係通知に照らし、請求人に対して当該不支給事由により傷病手当金を支給しないとしたことは、適法かつ妥当でないと判断する。
⑶ そうすると、原処分は妥当ではなく、取り消されなければならない。
以上の理由によって、主文のとおり決定する。

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