障害年金の審査請求・不服申し立て

障害年金-社会保険審査会裁決例

平成23年(厚)第45号  平成23年7月29日裁決

             主      文
後記第2の2記載の原処分は、これを取り消す。

             理      由
第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。
第2 再審査請求の経過
1 請求人は、慢性腎不全(以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、平成〇年〇月〇日(受付)、厚生労働大臣に対し、いわゆる事後重症による請求として障害基礎年金及び障害厚生年金の裁定を請求(以下「本件裁定請求」という。)した。
2 厚生労働大臣は、平成〇年〇月〇日付で、請求人に対し、「障害厚生年金を受給するためには、傷病の初診日が厚生年金保険の被保険者であった間であることが要件の1つとなっていますが、現在提出されている書類では、当該請求にかかる傷病(慢性腎不全の原因である糖尿病)の初診日が平成〇年〇月( 厚生年金保険の被保険者であった間) であることを確認することができないため。」との理由により、本件裁定請求を却下する旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服とし、〇〇厚生局社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。
第3 問題点
1 疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)において国民年金の被保険者である者又は被保険者であった者(日本国内に住所を有し、かつ、60歳以上65際未満の者に限る。)が、いわゆる事後重症による請求として障害基礎年金を受けるためには、① 当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治った場合においては、その治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)とし、以下「障害認定日」という。)において、国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表に掲げる障害等級1級又は2級に該当する程度の障害の状態になかったものが、同日以後65歳に達する日の前日までの間において、その傷病により障害等級1級又は2級に該当する程度の障害の状態に該当することと、② 当該障害の原因となった傷病に係る初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上であること、又は当該初診日の属する月の前々月までの1年間のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の被保険者期間がないこと(以下、この②の要件を「保険料納付要件」という。)、を必要とするとされている ( 国民年金法第30条、第30条の2第1項ないし第3項及び国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号。以下「昭和60年改正法」という。)附則第20条第1項参照)。
2 初診日において厚生年金保険の被保険者であった者が、いわゆる事後重症による請求として障害厚生年金を受けるためには、① 障害認定日において、国年令別表に掲げる障害等級1級若しくは2級又は厚生年金保険法施行令(以下「厚年令」という。)別表第1に掲げる障害等級3級のいずれかに該当する程度の障害の状態になかったものが、同日以後65歳に達する日の前日までの間において、その傷病により障害等級1級、2級又は3級に該当する程度の障害の状態に該当することと、② 保険料納付要件を満たしていること、を必要とするとされている(厚生年金保険法第47条、第47条の2及び昭和60年改正法附則第64条第1項参照)。
3 本件の場合、保険者は、当該傷病の初診日が平成〇年〇月(厚生年金保険の被保険者であった間)であることを確認できないためとして本件裁定請求を却下し、請求人はこれに対して不服を申し立てているのであるから、本件の問題点は、まずは、当該傷病に係る初診日(以下「本件初診日」という。)はいつかであり、次いで、前記1及び2の関係法令の規定に照らして、請求人が保険料納付要件を満たしていると認められるかどうかである。そして、保険料納付要件が満たされている場合、裁定請求日における請求人の当該傷病による障害の状態(以下「本件障害の状態」という。)が、国年令別表又は厚年令別表第1に定める程度に該当すると認められるかどうかである。
第4 事実の認定及び判断
1 本件資料によれば、以下の事実を認定することができる。
⑴ a 病院(以下「a 病院」という。)・A医師作成の受診状況等証明書(平成〇年〇月〇日付)から必要部分を摘記すれば、次のとおりである。 
・氏名:B ・傷病名:不明 ・発病年月日:不明 
・傷病の原因又は誘因:不明 
・発病から初診までの経過:不明 初診年月日:不明 終診年月日:不明 
・初診より終診までの治療内容及び経過の概要:平成〇年〇月〇日より平成〇年〇月〇日まで入院歴ありカルテ廃棄している為これ以上の情報は不可能。
※ 上記の記載は、当時の受診受付簿、入院記録より記載したものです。
⑵ b病院(以下「b病院」という。)・C医師作成の受診状況等証明書(平成〇年〇月〇日付)から必要部分を摘記すれば、次のとおりである。 
・氏名:B ・傷病名:不明 ・発病年月日:不明
・傷病の原因又は誘因:不明 ・発病から初診までの経過:不明
・初診年月日:不明 ・終診年月日:平成〇年〇月〇日
・初診より終診までの治療内容及び経過の概要:不明
※ 上記の記載は、その他(レセプトコンピューター)より記載したものです。
⑶ c病院(以下「c病院」という。)・D医師作成の受診状況等証明書(平成〇年〇月〇日付)から必要部分を摘記すれば、次のとおりである。 
・氏名:B ・傷病名:糖尿病 ・発病年月日:不詳 
・傷病の原因又は誘因:不詳
・発病から初診までの経過:前医○○共立病院より糖尿病治療目的に転医 
・初診年月日:平成〇年〇月〇日 ・終診年月日:平成〇年〇月〇日 
・初診より終診までの治療内容及び経過の概要:保存的治療施行、H〇.〇.〇より転地につき転医〇〇市d病院にて治療継続(本人弁)。
※ 上記の記載は、当時の診療録より記載したものです。
⑷ e病院f科E医師作成の平成〇年〇月〇日現症の診断書(平成〇年〇月〇日付)から本件障害の状態について、次のような記載が認められる。
・傷病名:慢性腎不全傷病の発生年月日:平成〇年〇月〇日(診療録で確認)
・初めて医師の診療を受けた日:平成〇年〇月〇日(診療録で確認)
・傷病の原因又は誘因:糖尿病(初診年月日:平成〇年〇月〇日)
・傷病が治った(症状が固定して治療の効果が期待できない状態を含む。)かどうか。~治っていない場合…症状のよくなる見込…無
・診断書作成医療機関における初診時(平成〇年〇月〇日)所見:〇〇才頃より糖尿病あり、H〇年〇月〇日転居のため当院初診、腎不全もあり外来通院。
・現在までの治療の内容、期間、経過等:H〇年〇月〇日血液透析導入週3回透析をおこなっている。
・計測(平成〇年〇月〇日計測):身長〇〇〇cm、体重〇〇kg、脈拍70回/分、血圧(最大130mmHg、最小80mmHg)、降圧薬服薬 有
・一般状態区分表(平成〇年〇月〇日):イ 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など障害の状態
・腎疾患(平成〇年〇月〇日現症)
臨床所見 
自覚症状悪心、食欲不振、頭痛……有  他覚所見浮腫……著
意識障害、尿毒症症状、アチドージス……無  貧血……有
腎不全に基づく神経症状、消化器症状、視力障害……無
検査成績(注:必要部分のみ摘記)
検査日検査項目検査日検査項目〇〇〇 . 〇〇 . 〇〇〇.〇〇尿蛋白尿 沈 渣赤血球 /HPF白血球 /HPF円 柱赤血球数×104/ ㎕〇〇〇 〇〇〇ヘモグロビン濃度  g/㎗ 〇.〇 〇〇.〇ヘマトクリット% 〇〇.〇 〇〇.〇白血球数 / ㎕〇〇〇〇 〇〇〇〇血小板数×104/ ㎕〇〇.〇 〇〇.〇血清総蛋白g/ ㎗〇.〇 〇.〇血清アルブミン g/ ㎗〇.〇 〇.〇総コレステロール ㎎/ ㎗ 血液尿素窒素(BUN)㎎ / ㎗ 〇〇.〇 〇〇.〇血清クレアチニン濃度㎎ / ㎗ 〇〇.〇〇 〇.〇〇 腎生検:無
人工透析療法の実施の有無:有(血液透析)
人工透析開始日:平成〇年〇月〇日
人工透析実施状況:回数・3回/週、1回3時間
人工透析導入後の臨床経過:良好 長期透析による合併症:無
・糖尿病(平成〇年〇月〇日現症)病型:2型糖尿病
( 〇〇.〇.〇 検査)HbA1c〇.〇%空腹時血糖〇〇〇mg / dl
・現症時の日常生活活動能力及び労働能力:週3回血液透析をしながら就労や軽作業可。
・予後:永続的に透析療法を要する。
⑸ 請求人の厚生年金保険の被保険者期間は、昭和〇年〇月〇日(資格取得)から昭和〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月、昭和〇年〇月〇日(資格取得)から昭和〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月、昭和〇年〇月〇日(資格取得)から昭和〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月、昭和〇年〇月〇日(資格取得)から昭和〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月、昭和〇年〇月〇日(資格取得)から平成〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月、平成〇年〇月〇日(資格取得)から平成〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月、平成〇年〇月〇日(資格取得)から平成〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月、平成〇年〇月〇日(資格取得)から平成〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月、平成〇年〇月〇日(資格取得) から平成〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月、平成〇年〇月〇日(資格取得)から平成〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月、平成〇年〇月〇日(資格取得)から平成〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月、平成〇年〇月〇日(資格取得)から平成〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月、平成〇年〇月〇日(資格取得)から平成〇年〇月〇日(資格喪失)までの〇月及び平成〇年〇月〇日(資格取得)から平成〇年〇月〇日までの〇月の合計〇月である。また、請求人の国民年金の保険料納付済期間は、平成〇年〇月から平成〇年〇月までの〇月、平成〇年〇月及び平成〇年〇月の〇月、平成〇年〇月及び平成〇年〇月の〇月並びに平成〇年〇月から平成〇年〇月までの〇月の合計〇月であり、保険料免除期間は昭和○年○月から昭和○年○月までの〇月、昭和○年○月から昭和○年○月までの〇月、平成〇年〇月から平成〇年〇月までの〇月、平成〇年〇月から平成〇年〇月までの〇月、平成〇年〇月から平成〇年〇月までの〇月及び平成〇年〇月から平成〇年〇月までの〇月の合計〇月である。
2 前記認定の事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
⑴ 本件初診日について検討する。初診日が障害基礎年金及び障害厚生年金における受給権発生の基準日とされている趣旨からいって、初診日に関する証明書類は、直接これに関与した医師又は歯科医師が作成したもの、又はこれに準ずるような証明力の高い資料でなければならないと解されるところ、前記1の(1) 及び(2) から、請求人が当該傷病の治療のためにa病院又はb病院を受診したとまで認定することは困難であり、前記1の(3) から、本件初診日は、請求人がc病院を受診した平成〇年〇月〇日であると解するのが相当である。そうすると、本件初診日において、請求人は国民年金の被保険者ではあるが、厚生年金保険の被保険者ではないから、請求人につき障害厚生年金の受給権は発生しない。
⑵ その余の点について判断する。
ア 第3の1及び2に記した関係法規定に照らすと、本件初診日の前日(平成〇年〇月〇日)において、本件初診日の属する月の前々月までの請求人の国民年金の被保険者期間(20歳前の厚生年金保険の被保険者期間〇〇月を含む。)は〇〇〇月であり、請求人の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間を含む。)は〇〇〇月、保険料免除期間は〇〇月で、その合算した期間は〇〇〇月であるから、請求人は、当該傷病による障害について障害基礎年金を受けるために必要とされる保険料納付要件を満たしている。
イ 次に、本件障害の状態を検討し、判断する。
① 腎疾患による障害により2級の障害基礎年金が支給される障害の状態としては、国年令別表に「前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」 ( 15号) が掲げられている。そして、これらの障害の程度を認定するためのより具体的な基準として、社会保険庁より発出され、同庁の廃止後は厚生労働省の発出したものとみなされて、引き続き効力を有するものとされている「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)が定められているが、給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準に依拠するのが相当であると考えるものである。
② 認定基準の第1章第12節/腎疾患による障害によれば、腎疾患による障害の程度は、自覚症状、他覚所見、検査成績、一般状態、治療及び病状の経過、人工透析療法の実施状況、具体的な日常生活状況等により、総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要するものであって、長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に該当するものと認定するとされ、慢性腎不全及びネフローゼ症候群での検査項目及び異常値の一部が次のとおり示されている。 
慢性腎不全及びネフローゼ症候群での検査項目及び異常値の一部を示すと次のとおりである。
区分 検査項目 単位 軽度異常 中等度異常 高度異常
ア 内因性クレアチニンクリアランス値(m ℓ/ 分)
 軽度異常;20以上30未満 中等度異常;10以上20未満 高度異常;10未満
イ 血清クレアチニン濃度(mg/ ㎗)
 軽度異常;3以上5未満 中等度異常;5以上8未満 高度異常;8以上
ウ ① 1日尿蛋白量(g/日) 3.5g以上を持続する
   ② 血清アルブミン(g/ ㎗) かつ、3.0g 以下
   ③ 血清総蛋白(g/ ㎗) 又は、6.0g 以下
(注)「ウ」の場合は、①かつ②又は①かつ③の状態を「異常」という。
また、腎疾患による障害の程度を一般状態区分表で示すと次のとおりである。
区分一般状態
ア 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの
イ 軽の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの  例えば、軽い家事、事務など
ウ 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの
エ 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの
オ 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの
そして、腎疾患により1級及び2級に相当するものを一部例示すると次のとおりであるとされている。
障害の程度  障害の状態
1級
前記に示す検査成績が高度異常を示すもので、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2級
1.前記に示す検査成績が中等度異常を示すもので、かつ、一般状態区分表のエ又はウに該当するもの
2.人工透析療法施行中のものなお、人工透析療法施行中のものは2級と認定し、主要症状、人工透析療法施行中の検査成績、具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定するとされている。
③ 上記認定基準に照らして、本件障害の状態を検討するに、請求人は、人工透析療法を受けていることから、2級に認定され、主要症状、人工透析療法施行中の検査成績、具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定するとされているところ、現症時において、自覚症状として悪心、食欲不振、頭痛が、他覚所見として浮腫、貧血が認められ、現症日に近接した日における血清クレアチニン濃度が〇.〇〇 mg/ml と中等度異常を示すものの、一般状態区分表イであり、これらを総合的に勘案すればさらなる上位等級に該当しないと認めるのが相当である。
⑶ 以上から、請求人の本件障害の状態は、国年令別表の2級に掲げる程度に該当すると認められるので、請求人には平成〇年〇月〇日をその受給権発生日とする障害基礎年金が支給されるべきであり、これと趣旨を異にする原処分は妥当でなく、取り消されなければならない。
以上の理由によって、主文のとおり裁決する。

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