障害年金の審査請求・不服申し立て

障害年金-社会保険審査会裁決例

平成24年(厚)第376号  平成24年11月30日裁決

             主      文
厚生労働大臣が、平成〇年〇月〇日付で、請求人に対してした、後記第2記載の原処分を取り消す。

             理      由
第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)による障害厚生年金(以下、単に「障害厚生年金」という。)及び国金年金法(以下「国年法」という。)による障害基礎年金(以下、単に「障害基礎年金」という。)の支給を求めるということである。
第2 事案の概要
本件は、初診日を平成〇年〇月〇日とする両眼網膜色素変性症(以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、平成〇年〇月〇日(受付)、いわゆる事後重症による請求として障害厚生年金及び障害基礎年金(以下、併せて「障害給付」という。)の裁定を請求した請求人に対し、厚生労働大臣が、平成〇年〇月〇日付で、障害厚生年金を受給するためには、傷病の初診日が厚生年金保険の被保険者であった間であることが要件の1つとなっていますが、現在提出されている書類では、当該傷病(両眼網膜色素変性症)の初診日が平成〇年〇月〇日(厚生年金保険の被保険者であった間)であることを確認することができないためという理由により本件裁定請求を却下する旨の処分(以下「原処分」という。)をしたのに対し、請求人が、標記の社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に再審査請求をした事案である。
第3 当審査会の判断
1 20歳到達日以後に、疾病にかかり、又は負傷し、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)のある傷病による障害について、障害厚生年金を受給するためには、当該障害の原因となった傷病に係る初診日の前日において、厚生年金保険の被保険者であり(以下、これを「被保険者資格要件」という。)、かつ、所定の保険料納付要件を満たした上で(以下、これを「保険料納付要件」という。)、対象となる障害の状態が厚年法施行令(以下「厚年令」という。)別表第1(障害年金3級の障害の程度を定めた表)に定める程度以上に該当することが必要とされている。また、障害等級2級以上の障害厚生年金を受給する者には、併せて障害基礎年金が支給される。
2 請求人に認められる障害が当該傷病によるものであることは当事者間に争いがないところ、前記第2に記載した理由によってなされた原処分に対し、請求人は、当該傷病に係る初診日(以下「本件初診日」という。)を平成〇年〇月〇日と主張しているのであるから、本件の問題点は、第1に、本件初診日がいつと認められるかであり、本件初診日における被保険者資格要件及び保険料納付要件を満たした上で、第2に、裁定請求日における請求人の当該傷病による障害の状態(以下、これを「本件障害の状態」という。)が、厚年令別表第1(障害年金3級の障害の程度を定めた表)に定める程度以上に該当すると認められるかどうかである。
3 本件初診日について判断する。初診日に関する証明資料は、国年法及び厚年法が、初診日を障害給付の受給権発生の基準となる日と定めている趣旨からすると、直接それに係る診療を行った医師(歯科医師を含む。以下、同じ。)ないし医療機関が作成した診断書、若しくは、医師ないし医療機関が、診断が行われた当時に作成された診療録等の客観性のある医療記録の記載に基づいて作成した診断書又はそれらに準ずるような証明力の高い資料でなければならないことは当然である。このような観点から本件をみるに、本件において本件初診日に関する客観的資料として取り上げられるべきものは、① a病院・A医師(以下「A医師」という。)作成の平成〇年〇月〇日現症に係る同月〇日付診断書(以下「本件診断書」という。)、② A医師作成の平成〇年〇月〇日付受診状況等証明書、③ 〇〇市が平成〇年〇月〇日に交付した請求人に係る身体障害者手帳、及び④ b病院・B医師作成の平成〇年〇月〇日付身体障害者診断書・意見書(視覚障害用)のみであり、これら以外には存しないところ、各資料(以下、それぞれ「資料①」などという。)をみれば、次のとおりである。
すなわち、資料①は、障害の原因となった傷病名として当該傷病が掲げられた上で、初めて医師の診療を受けた日は、「平成〇年〇月〇日 診療録で確認」とされ、診断書作成医療機関における初診時所見欄の初診年月日は平成〇年〇月〇日とされている。資料②は、当時の診療録より記載したものであり、傷病名は、「両 網膜色素変性症」、発病年月日は不明とされ、発病から初診までの経過は、「視野狭窄。視力低下を主訴に H〇.〇.〇 初診 〇年前〇〇の病院へ夜盲等により通院歴あり。以後受診はなかったようである。」とされ、初診年月日は、「平成〇年〇月〇日」、終診年月日は「平成〇年〇月〇日」、初診より終診までの治療内容及び経過の概要には、「年1~2回程度検査受診。H〇.〇身障手帳交付希望にてb病院紹介受診し申請したようです。H〇.〇.〇(最終検査)Vd=〇.〇(〇.〇p)Vs=〇.〇(〇.〇)でした。(視野検査施行せず。)H〇.〇.〇c病院受診希望との事で紹介状お書きしました。」とされている。また、資料③及び資料④によれば、請求人は、平成〇年〇月〇日、b病院を受診し、「網膜色素変性症」による「両眼視野障害」によって身体障害者程度等級2級の身体障害者手帳が交付されたことが認められる。
そうして、医学的観点から当該傷病の臨床経過をみてみると、当該傷病は、先天性とされているものの、生下時に当該傷病に起因する症状がすべて完成し、それがそのまま恒常的に持続していくものではなく、時間の経過に伴って、各症状が発現し、それは経過中に1度も改善することなく徐々に進行していくとされている。すなわち、主症状である夜盲、視力低下、視野障害についてみると、多くの場合、20歳ないしは40歳頃に最初に夜盲に気付き、その後において視力低下と周辺視野障害が発現し、それが緩徐進行性に増悪し、最終的には、著しい視力低下と高度の視野狭窄になるとされている。
上記のような医学的経過をも考慮し、提出されている資料に基づいて本件初診日についてみると、当該傷病の発病年月日は不明とされているものの、請求人が当該傷病の主症状である夜盲及び視野狭窄を主訴として、医療機関を初めて受診したのは、平成〇年〇月〇日であり、同日をもって、本件初診日と認定するのが相当である。
なお、資料②には、「視力低下を主訴にH〇.〇.〇初診 〇年前〇〇の病院へ夜盲により通院歴あり。」とされているが、上記〇年前のこととは、請求人作成の平成〇年〇月〇日付病歴・就労状況等申立書によれば、20歳到達前の平成〇年〇月ころに、「〇〇市のd病院」を「大学入学時に提出用の健康診断書の作成のため受診。結果は特に異常なし。夜盲ぎみなのが気になると伝えたところ、大きな病院で検査をすれば何か判るかも知れない、と言われた。」と記載されているエピソードのことであるが、これらの申立事実を証明できる他のいかなる資料をも見出すことはできないし、当時において請求人には特段の症状やそれに起因する明らかな障害があったことを認めるに足りる証拠はないから、資料②の上記載は、大学受験に必要な診断書作成のために受診した旨の陳述のみによって記載されたと判断するのが相当であり、平成〇年〇月ころを本件初診日と認定することはできない。
4 被保険者資格要件及び保険料納付要件について検討する。
当該傷病に係る初診日を平成〇年〇月〇日として、請求人に係る被保険者記録照会回答票(資格画面)に照らして、厚生年金保険の被保険者資格及び保険料納付要件をみると、本件初診日において、請求人は、被保険者資格要件を満たし、かつ、所定の保険料納付要件を満たしている。
5 本件障害の状態について判断する。国年法施行令(以下「国年令」という。)別表は、障害等級2級の障害の状態を定めているが、請求人の当該傷病にかかわると認められるものとしては、「両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの」( 1号)、及び、「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」(15号)が掲げられている。
そして、国民法及び厚年法上の障害の程度を認定するためのより具体的な基準として、社会保険庁により発出され、同庁の廃止後は厚生労働省の発出したものとみなされて、引き続き効力を有するものとされている「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)が定められているが、障害の認定及び給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準に依拠するのが相当であると思料するものである。
認定基準の第3第1章第1節/眼の障害によれば、視力障害については、両眼の視力は、両眼視によって累加された視力ではなく、それぞれの視力を別々に測定した数値であり、両眼の視力の和とはそれぞれの測定値を合算したものをいうとされている。また、「身体の機能の障害が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」とは、両眼の視野が5度以内のものをいうとされ、視野は、ゴールドマン視野計及び自動視野計又はこれらに準ずるものを用いて測定する、ゴールドマン視野計を用いる場合、中心視野の測定にはI/2の視標を用い、周辺視野の測定にはI/4の視標を用いる、それ以外の測定方法によるときは、これに相当する視標を用いることとするとされ、「両眼の視野が5度以内」とは、それぞれの眼の視野が5度以内のものをいい、求心性視野狭窄の意味である。」とされ、視力障害と視野障害が併存する場合には、併合認定の取扱いを行うとされている。
そうして、本件障害の状態は、本件診断書によれば、矯正視力は、右(〇.〇)、左(〇.〇)、両側視野は、いずれも5度程度の視野狭窄があり、予後は「回復の見込みなし」とされている。また、初診日から長年が経過して、予後は回復の見込みなしとされていることから、これらの症状は既に固定の状態にあると認められるところ、障害の程度をみると、視力障害については、認定対象とならないものの、両眼の視野が、いずれも5度以内に制限されているので、国年令別表に定める2級の程度の「身体の機能の障害が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」に該当する。
6 以上のように、本件においては、当該傷病に係る初診日を平成〇年〇月〇日と認定した上で、裁定請求日における請求人の当該傷病による障害の状態は、国年令別表に定める障害等級2級に該当すると認められるのであり、当審査会の上記判断と符合しない原処分は妥当ではなく、これを取り消すこととし、主文のとおり裁決する。

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