障害年金-社会保険審査会裁決例

平成17年(厚)第6号  平成18年2月28日裁決

             主      文
社会保険庁長官が、平成16年6月15日付で、再審査請求人に対し、平成16年4月から障害厚生年金の支給を停止するとした処分を取り消す。

             理      由
第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。
第2 再審査請求の経過
1 請求人は、左下肢麻璋(以下「当該傷病」という。)による障害の状態が厚生年金保険法施行令(以下「厚年令」という。)別表第1第14号に掲げる程度に該当するとして、障害等級3級の障害厚生年金の支給を受けていた。
2 社会保険庁長官は、平成15年現況届に添付された診断書を診査した結果、請求人の障害の状態は厚年令別表第1に掲げる程度には該当しなくなったとして、平成16年6月15日付で、請求人に対し、平成16年4月から、障害厚生年金の支給を停止する旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服として、〇〇社会保険事務局社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し再審査請求をした。
第3 問題点
1 障害厚生年金は、障害の状態が厚年令別表第1に定める3級の程度以上に該当しなくなったときは、その該当しない間、その支給が停止されることになっている。
2 本件の問題点は、平成15年現況届提出時における請求人の当該傷病による障害の状態が、厚年令別表第1に掲げる程度に該当すると認めることができるかどうかということである。
第4 審査資料
本件の審査資料は、次のとおり(資料4を除き、いずれも写)である。
資料1 請求人に係る下記診断書
1-1 平成15年現況届に添付されたB病院(以下「B病院」という。)整形・草〇敦〇医師(以下「草〇医師」という。)作成の診断書(平成15年12月24日付)
1-2 C整形外科・森〇明〇医師(以下「森〇医師」という。)作成の診断書(請求人が本件障害厚生年金裁定請求時に提出したもの。平成13年6月30日付。以下「裁定請求時の診断書」という。)
資料2 社会保険業務センター業務部業務審査課障害年金係の照会に対する草〇医師作成の回答書(平成16年2月26日付)
資料3 社会保険業務センター所長の照会に対する下記回答書
3-1 平成17年5月27日付草〇医師作成のもの
3-2 平成17年10月25日付草〇医師作成のもの
3-3 平成17年10月]5日付森〇医師作成のもの
資料4 当審査会委員長の照会に対するB病院黒〇良〇医師(以下「黒〇医師」という。)作成の回答書(平成18年1月16日付)
第5 事実の認定及び判断
1 前記審査資料により、次の事実が認められる。
⑴ 草〇医師の診断書の主要部分を摘記すると、次のとおりである(資料1-1)。
傷病名:両変形性股関節症
最近1年間の治療の内容等:H15.12/8左人工股関節置換術
計測:身長156cm 体重83kg
障害の状態:(平成15年12月24日現症)
人工骨頭・人工関節の装着の状態:左股関節(手術日:平成15年12月8日)
関節可動域及び運動筋力
部位;股関節

運動       左 
関節可動域 (角度)関節運 関節可動域関節運
種類自動可動域他動可動域動筋力 強直肢位動筋力
屈曲  50 50正常  30正常
伸展 -10-10正常 -30やや減
内転  10 10やや減   0正常
外転  -5-5正常   5やや減
日常生活動作の障害の程度(補助用具を使用しない状態で、一人でうまくできる場合には〇、一人でできてもやや不自由な場合には○△、一人でできるが非常に不自由な場合には△×、一人では全くできない場合には×)
ズボンの着脱・・・・・・・・・・両手△×
靴下を履く・・・・・・・・・・・両手△×
片足で立つ・・・・・・・・・右△×左△×
座る・・・・・・・・・・・・△×
深くおじぎをする・・・・・・・・・・△×
歩く・・・・・・・・・・屋内△×屋外△×
立ち上がる‥‥(支持のない状態で)×
階段を登る‥‥(手すりのない状態で)×
階段を降りる‥‥(手すりのない状態で)×
その他の項目はすべて〇
その他の精神・身体の障害の状態:腹部人工血管置換術後
現症時の日常生活活動能力及び労働能力:立位保持困難である。デスクワーク以外は不可。
予後:手術後改善の見込み
⑵ 裁定請求時の診断書(平成13年6月30日現症)によると、傷病名は①両先天性股関節脱臼後遺症②左下肢麻痺とされ、傷病の原因又は誘因については、①は両先天性股関節脱臼、②は腹部大動脈瘤手術となっており、両先天性股関節脱臼については、昭和33年左股関節固定術を施行し、その後変形性股関節症が発症し、平成6年より治療している。そして、平成11年5月腹部大動脈瘤手術を施行し、平成11年7月21日同再手術後、左下肢麻蝉が出現したが、上記①と②の傷病名の間に因果関係は認めないとされている。また、平成13年6月30日現症時における左足関節の関節可動域は背屈-10°、底屈45° 、運動筋力は共に半減、右足関節の関節可動域は背屈15°底屈45° 、運動筋力は共に正常又はやや減となっている(資料1-2)。
⑶ 資料2の回答書の内容は、次のとおりである。
(平成16年2月26日現症)
足指関節自動可動域
 部 位 中足指(MP) 近位指節(PIP)
    右 左  右 左
母指屈曲  40 40  30 30
 伸展  20 20  0 0
示指屈曲  40 40  40 40
 伸展  10 10  0 0
中指屈曲  40 40  30 30
 伸展  10 10  0 0
環指屈曲  50 50  45 45
 伸展  0 0  0 0
小指屈曲  30 30  35 35
 伸展  5  5  0 0
関節可動域及び運動筋力
 運動 右  左 
部 位 の関節可動域関節運関節可動域関節運
 種類自動可動域動筋力自動可動域動筋力
膝関節屈曲110やや減110やや減
 伸展-5やや減<-5やや減<
足関節足関節20やや減15やや減
 底屈5正常5正常
⑷ 草〇医師は、平成16年2月26日現症における左足関節の病状については、症状固定の状態であり、また、右足関節底屈の可動域の制限は、左下肢麻庫によるものと推測され、治療による軽減は見込み無い旨の回答をしている(資料3-1及び同3-2)。
⑸ 森〇医師は、左下肢麻痺は腹部大動脈瘤手術後出現しており、L5~S1神経領域が中心と思われる。また、左股関節の強直状態に加え、右股関節もほぼ強直に近い状態であるので、日常生活は、かなり困難であることは想像される旨の回答をしている(資料3-3)。
⑹ 当審査会で平成16年2月26日現症における請求人の障害の状態について再確認したところ、社会保険業務センター業務部業務審査課障害年金係の照会に対する草〇医師作成の平成16年2月26日付回答書(資料2)の記載のとおりである旨黒〇医師から回答があった(資料4)。
2 前記1で認定した事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
⑴ 当該傷病により3級の障害厚生年金が支給される障害の状態としては、厚年令別表第1に「一下肢の3大関節のうち、2関節の用を廃したもの」(6号)及び「前各号に掲げるもののほか、身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」(12号)が規定されている。
ところで、社会保険庁では、国民年金法及び厚生年金保険法による障害の程度を認定する基準として「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)を定めているが、給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準に依拠するのが相当であると考える。
⑵ 認定基準より、請求人の障害の程度を認定するために必要な部分を摘記すると、次のとおりである(第1章第7節/肢体の障害第2下肢の障害及び第2章第2節/併合(加重)認定)
ア 「関節の用を廃したもの」とは、関節の自動可動域が健側の自動可動域の2分の1以下に制限されたもの、又はこれと同程度の障害を残すものをいう。
イ 関節可動域の評価は、原則として、健側の関節可動域と比較して患側の障害の程度を評価するが、両側に障害を有する場合にあっては、「肢体の障害関係の測定方法」(掲表省略)による参考可動域を参考とする。
ウ 併合(加重)認定
2つの障害が併存する場合、個々の障害について、併合判定参考表(掲表省略)における該当番号を求めた後、当該番号に基づき併合(加重)認定表(掲表省略)による併合番号を求め、障害の程度を認定する。
⑶ 上記認定基準に照らして、前記1で認定した請求人の障害の状態を検討すると、次のとおりである。
ア まず、厚年令別表第1の3級6号「一下肢の3大関節のうち、2関節の用を廃したもの」に該当するかどうかを検討する。
左右の下肢のいずれにおいても、足関節のみの用を廃した状態であるので、上記認定基準からみて当該級号には該当しない。
イ 次に、併合(加重)認定により障害の程度を検討する。
左右の足関節の自動可動域は、それぞれ参考可動域の2分の1以下に制限されていることから、「一下肢の3大関節のうち、1関節の用を廃したもの」に相当し、いずれも併合判定参考表の8号-4に該当する。そこで、併合(加重)認定表より、上記2つの番号から併合番号を求めると7号となり、この併合された障害の状態は、厚年令別表第1に定める3級の程度となる。
したがって、請求人の平成15年現況届当時における当該傷病による障害の状態は、厚年令別表第1に掲げる程度に該当するものと判断する。なお、保険者は、当該傷病による障害の状態の評価の際、左足関節のみについて、右足関節を健側とみなして関節可動域の比較を行っているが、前記1の⑶及び⑷のとおり当該傷病により右足関節にも障害を来していることから、両足関節のそれぞれについて参考可動域を用いて比較評価すべきでものであることを念のため申し添える。
⑷ そうすると、原処分は妥当ではなく、取り消さなければならない。
以上の理由によって、主文のとおり裁決する。

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