傷病手当金-社会保険審査会裁決例
平成16年(健)第38号 平成17年1月31日裁決
主 文 甲社会保険事務所長が、平成16年1月6日付で、再審査請求人に対し、平成15年6月29日から同年9月30日までの期間及び同年11月1日から同月30日までの期間に係る、健康保険法による傷病手当金の請求について、法定給付期間(1年6月)を超えた請求であるためという理由で、同手当金を支給しないとした処分をいずれも取り消す。
理 由 第1 再審査請求の趣旨 再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。 第2 再審査請求の経過 1 請求人は、陳旧性心筋梗塞、心筋梗塞、高血圧、糖尿病(以下「当該傷病」という。)の療養のため、平成15年6月29日から同年9月30日までの期間及び同年11月1日から同月30日までの期間(以下、併せて「本請求期間」という。)労務に服することができなかったとして、平成15年10月8日(受付)及び同年12月22日(受付)、甲社会保険事務所長(以下「所長」という。)に対し、健康保険法(以下「法」という。)による傷病手当金(以下、単に「傷病手当金」という。)の支給を請求した。 2 所長は、請求人に対し、平成16年1月6日付で、本請求期間については、法定給付期間(1年6月)を超えた請求であるとして、傷病手当金を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。 3 請求人は、原処分を不服として、〇〇社会保険事務局社会保険審査官(以下「審査官」という。)に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。 第3 問題点 1 傷病手当金の支給について、法第99条第1項には「被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金……を支給する」と、また、同条第2項には「傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6月を超えないものとする」と規定されている。 2 本件の問題点は、本請求期間に係る当該傷病が、請求人が平成11年6月22日から傷病手当金を受給した傷病と同一傷病又はこれにより発した疾病でないと認められるかどうかということである。 第4 審査資料 「(略)」 第5 事実の認定及び判断 1 前記審査資料を総合すると、次の事実が認められる。 ⑴ 請求人は、平成11年6月19日胸痛出現し、㈱D○○事業所付属E病院(以下「E病院」という。)に入院、急性心筋梗塞との診断のもと経皮的冠動脈形成術を受け、以後経過良好にて約4週間の療養の後、従前の業務(運転手)に就いた。この間平成11年6月22日から同年7月15日まで傷病手当金を受給している。そうして、職場復帰後、少なくとも平成11年8月から平成14年10月までの間は、E病院にておおよそ月1ないし3回受診し、定期的検査を受ける等の経過観察を受けながら、通常の勤務をしている(資料1-1、2、5及び6)。 ⑵ 請求人は、平成15年6月29日胸痛、背部痛にて総合病院社会保険B病院(以下「B病院」という。)に入院精査したところ、特に異常はなく、症状も徐々に改善し同年7月9日退院し、同月15日からは、Fクリニックに通院し、心疾患、糖尿病等のコントロールを受けており、今回の傷病手当金請求に至っている(資料1-2)。 ⑶ Cクリニック理事長宮○正○医師(以下「宮○医師」という。)は、既決支給期間に係る疾病(急性心筋梗塞)と今回(本請求期間)の疾病は、同一の疾病又はこれによって発した疾病と認められる旨の回答をしている(資料3)。 ⑷ E病院高○昭○医師(以下「高○医師」という。)は、請求人は平成11年6月に急性心筋梗塞の治療を受けており、以降狭心症の治療を他院で毎月受けているが、今回の陳旧性心筋梗塞を含め、医学的には継続した治療とみなしてよい旨の回答をしている(資料4)。 ⑸ 請求人は、各月1ないし3回受診し、投薬、生化学的・血液学的検査(約半年に1回)等を受けている(資料5)。 ⑹ 賃金台帳及び出勤簿によると、請求人は、平成11年8月から平成15年5月まで(平成12年9月及び平成13年6月を除く)の44ヵ月のうち、欠勤無しの月は20ヵ月、欠勤有りの月(1ないし5日間)は24ヵ月、この間休日出勤した月(1ないし5日間)は12ヵ月、また、平成12年6月、平成13年9月~12月、平成14年7月及び平成15年3月を除き毎月早出残業をしている(資料6)。 2 前記認定された事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。 ⑴ 前記1の⑴ないし⑷で認定したとおり、請求人に係る本請求期間の当該傷病が、再発によるものであり、医学的には既決傷病と同一傷病又はこれにより発した疾病であることは明らかである。 ⑵ ところで、社会保険の運用上、過去の傷病が治癒したのち再び悪化した場合は、再発として過去の傷病とは別傷病とし、治癒が認められない場合は、継続として過去の傷病と同一傷病として取り扱われるが、医学的には治癒していないと認められる場合であっても、軽快と再度の悪化との間に社会的治癒に相当する一定の期間が認められる場合には、再発として取り扱われるものとされている。 ⑶ そこで、既決支給期間終了後、当該傷病により労務不能となった本請求期間までの間に社会的治癒に相当する期間があつたかどうか検討する。 請求人は、平成11年8月から平成14年10月までの間は、おおよそ月1ないし3回受診し、投薬、定期的検査(約半年に1回)等の経過観察を受けながら、従前同様の業務にほぼ通常勤務(平成12年9月及び平成13年6月を除き平成11年8月から平成15年5月までの間)をしていること等を総合すると、同人には、少なくとも平成11年8月頃から平成14年10月頃までの3年余にわたる社会的治癒に相当する期間があつたものと認めることが相当と判断する。 ⑷ そうすると、原処分は妥当でなく、取り消さなければならない。 以上の理由によって、主文のとおり裁決する。