傷病手当金の支給期間の根拠条文
健康保険法第九十九条 4 傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して一年六月を超えないものとする。
通知・通達およびその解釈
各保険者において、傷病手当金の決定は、以下の保険課長通知、通達(解釈)等に基づき運用されています。
⑴「同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病」 同一の疾病または負傷とは、「一回の疾病又は負傷で治癒するまでをいうが、治癒の認定は必ずしも医学的判断のみによらず、社会通念上治癒したものと認められ、症状をも認めずして相当期間就業後同一病名再発のときは、別個の疾病とみなす。通常再発の際、前症の受給中止時の所見、その後の症状経過、就業状況等調査の上認定す。(昭和29年3月保文発第3027号)(昭和30年2月24日保文発第1731号)」 また、「結核性疾患については、症状が固定し、自覚的および他覚的にも病変や異常を認めず、医療を行う必要がなくなった程度、すなわち、社会通念上、治癒したものと認めることができる状態にある場合を「治癒」と認定している。したがって、その後通常の勤務に服したにもかかわらず、一定期間経過後再び結核性疾患が発生したときは「再発」として取り扱って差し支えない。(昭和29年6月26日保文発第7334号)」 したがって、「同一の疾病又は負傷には再発にかかるものは含まない。(昭和2年6月疑義事項解釈)」逆にいえば、断続して療養を受けても同一疾病の継続しているものは、一疾病とする。 しかし、次のような場合には同一疾病として取り扱わないことが適当と考えられる。「被保険者が眼疾の自覚症状があり、保険医の診療を求めたところ診療の結果白内障と診断されたが未だ成熟していないので治療を施すべき時期に至らないと申し渡され、何等の治療も受けず、その後一、二年して甚しく視力障害を来したので改めて診療を受けようとしたような場合には、保険給付は一旦終了したものとみなし後の給付については別に期間計算をする。(昭和6年12月26日保規第32号)」 また、「医師の附した病名が異なる場合でも疾病そのものが同一なること明らかなときは同一の疾病に該当する。(昭和4年8月30日保規第45号)」これに対し、略治と認められたときは治癒と認められるまで療養を続けるべきであって、「略治のまま勤務に服したときは、その後定期的に健康診断を受けその結果治癒と診断されて相当期間労務に服しその期間中の健康状態が良好であったことが認められれば、一旦治癒し再発と認められる。(昭和28年4月9日保文発第2013号)」 再発とは、結局、「被保険者が医師の診断により全治と認定されて療養を中止し、自覚的にも他覚的にも症状がなく勤務に服した後の健康状態も良好であったことが確認される場合は再発とみなす。(昭和26年12月21日保文発第5698号)」 また、てんかんについては、「最後の発作後相当期間経過し、症状もなく、治療の要もなく、かつまた、労務に服することを得る状態にあったとき、その後の発作は再発として取り扱う。(昭和11年5月30日保規第124号)」 次に、「これにより発した疾病」とは、「同一系統のものであるか否かを問わずある傷病を原因として発した疾病をいうが、前傷病が一旦治癒した後これを原因として発した疾病を含まない。(昭和5年7月17日保規第351号)」この場合、直接的、医学的因果関係があることが必要である。すなわち、第一の疾病がなければ第二の疾病はおこり得なかったであろうという密接な因果関係が、その間に認められなければならない。たとえば、胃酸過多症に起因した胃潰瘍等が適例である。
⑵「その支給を始めた日から起算して」 現実に支給を開始した日から起算することを意味する。したがって、3日間の待期を完成し第4日目も労務不能であれば第4日目から起算されるが、第4日目には、出勤し第5日目から再び労務不能となったときは第5日目から起算される。 また、傷病手当金の支給は、法第108条の規定により、報酬の全部または一部を受けている者にはその受けている期間支給しないことになっており、ただし、受ける報酬の額が支給されるべき傷病手当金の額より小なるときは差額を支給することになっている。 したがって、事業主から報酬全額を受けている者の支給期間の始期は、「報酬の支給が停止された日から、または、減額支給されることになりその支給額が傷病手当金の額より少なくなった日から起算される。(昭和25年3月14日保文発第571号)(昭和26年1月24日保文発第162号)」 いいかえれば、「報酬が100分の60(3分の2に相当する金額)以上である場合の期間は支給期間に算入はしない。(昭和27年7月9日保文発第3809号)」また、継続して報酬の一部を受ける場合の始期は、「その差額の傷病手当金の支給を受ける場合において、その支給を受け始めた日をいう。(昭和21年6月20日保発第729号)(昭和26年1月24日保文発第162号)」 次に、被保険者資格を喪失した者が、被保険者期間中報酬を受けていたために、法第108条の規定により、傷病手当金を受けていなかった場合には、「法第104条の保険給付を受ける者とは、療養の給付を受給中の者のように現に給付を受けているか、又は労務不能期間中であっても報酬の全部が支給されているため法第108条の規定によって傷病手当金の支給を一時停止されている者のように、現に給付を受けていないが給付を受けうる状態にあるものをいうと解されている。(昭和5年4月24日保規第270号)(昭和32年1月30日保発第2号)」 したがって、資格喪失の日前に療養のための労務不能状態が連続して4日間以上ある場合には、喪失後継続して傷病手当金の受給が可能で、その支給期間の始期は、現実に支給された日、すなわち、この場合資格喪失の日からである。 「資格喪失の日前療養のため労務不能の状態が3日間連続しているのみでは、いまだ現に傷病手当金の支給を受けているわけでなく、また、支給を受け得る状態にもないので、継続給付としての傷病手当金の支給は受けられない。(昭和2年9月9日保理第3289号)(昭和32年1月30日保発第2号)」 また、資格喪失後継続して受給している場合に、「保険診療を受けていても一旦稼働して傷病手当金が不支給となった場合には、完全治癒であると否とを問わず、その後更に労務不能となっても傷病手当金の支給は復活されない。(昭和26年5月1日保文発第1346号)」 また、法第103条の規定により、出産手当金を支給するときは、その期間傷病手当金は支給しないことになっている。したがって、出産手当金受給中に、傷病手当金を支給すべき状態になっても、出産手当金の支給期間が経過しなければ支給を開始せず、出産手当金の支給期間経過後傷病手当金の支給が開始されたときは、その開始日が「支給を始めた日」となる。 これに対し、傷病手当金支給中出産手当金を支給すべき事由が生ずれば、傷病手当金の支給は停止されて出産手当金が支給され、出産手当金の支給期間満了後、なお、当該傷病手当金を継続して支給すべきであれば、引き続き支給される。ただし、この場合の傷病手当金の支給期間は、⑶でも説明するように、出産手当金の支給開始前の、初めて当該傷病手当金が支給された日から1年6月であって、したがって、「支給を始めた日」とは、当該傷病手当金が初めて支給された日である。
⑶「一年六月を超えないものとする」 この1年6月の意味は、1年6ヵ月分の傷病手当金が支給されるということではない。1年6ヵ月間という期間(その間に労務可能となった期間を含む。)を意味する。 したがって、傷病手当金の支給を受けている被保険者が、法施行区域外に赴き法第118条第1項第2号に該当するに至ったときも、「その期間は1年6ヵ月の期間の内に包含する。(昭和4年7月10日事発第1175号)(昭和5年8月26日保規第451号)」 また、「傷病手当金の支給を受ける中途において出産手当金の支給を受けたため、傷病手当金の支給を受けることができなかった場合でも、傷病手当金の支給は、その支給開始の日から1年6月で打ち切られる。(昭和4年6月21日保理第1818号)」 次に、一つの疾病について療養のため労務不能期間中に、他の疾病が発生したときの傷病手当金の支給については、「前に発生した疾病について傷病手当金支給期間が満了し、その後もなお、疾病の療養のため労務不能である者について、他の疾病が発生し、この後に発生した疾病についてみても労務不能と考えられる場合には、前の疾病についての療養継続中ではあっても、また、前後の疾病の程度が同程度であっても、後の疾病について支給されるべきである。(昭和26年6月9日保文発第1900号)(昭和26年7月13日保文発第2349号)」
傷病手当金の資格喪失後の継続給付の根拠条文
健康保険法第百四条 被保険者の資格を喪失した日(任意継続被保険者の資格を喪失した者にあっては、その資格を取得した日)の前日まで引き続き一年以上被保険者(任意継続被保険者又は共済組合の組合員である被保険者を除く。)であった者(第百六条において「一年以上被保険者であった者」という。)であって、その資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる。
通知・通達およびその解釈
⑴「支給を受けているもの」 「現にこれ等の保険給付を受けている者は勿論その受給権者であって、法律第108条の規定により一時給付の停止をされている者も含む。(昭和27年6月12日保文発第3367号)」なんとなれば、「第108条において傷病手当金又は出産手当金を支給しないと規定しているのは、被保険者の給付受給権の消滅を意味するのではなく、その停止を意味するにすぎないから、その者が資格を喪失し、事業主より報酬を受けなくなれば第99条により当然にその日より傷病手当金又は出産手当金は支給すべきものと思料される。(昭和27年6月12日保文発第3367号)」からである。 したがって、法第103条の規定により、傷病手当金の受給要件を満たしたが出産手当金の受給中のゆえに傷病手当金の受給が停止されている被保険者が、かかる状態の間に資格を喪失すれば、資格喪失の際、受給権者であるが一時給付の停止を受けている者であるので、資格喪失後において出産手当金の支給期間が満了すれば、その翌日より傷病手当金を支給されることになる。 また、現に給付を受けるか受給権者であるかでなければならないので、「退職時疾病にかかっていても、会社に出勤して労務に服していれば、資格喪失後の傷病手当金の受給はできない。(昭和31年2月29日保文発第1590号)」
⑵「被保険者として受けることができるはずであった期間」 たとえば、傷病手当金の支給期間は支給開始後、1年6月であるが、資格喪失前すでに2月を経過していれば、被保険者として受けることができる期間は、あと1年4月ということになる。
⑶「継続して」 継続して受給する、すなわち、断続しては受けられないことを意味する。したがって、「資格喪失後継続して傷病手当金の支給を受けている者については、保険診療を受けていても、一旦稼働して傷病手当金が不支給となった場合には、完全治癒であると否とを問わず、その後更に労務不能となっても傷病手当金の支給は復活されない。(昭和26年5月1日保文発第1346号)」 また、「昭和28年11月1日に資格を喪失した被保険者について、同年6月30日から10月31三日まで結核による傷病手当金が支給されていた。継続給付受給要件を満たしていた者であったので喪失の日の11月1日から翌29年12月29日までの傷病手当金を昭和31年10月16日に請求してきた。しかし昭和28年11月1日から翌29年10月15日までの分は時効により支給できない。このような場合には、法第104条の継続してに該当しないので時効未完成の期間についても継続給付は受けられない。(昭和31年12月24日保文発第11283号)」