傷病手当金-社会保険審査会裁決例
平成17年(健)第327号 平成18年6月30日裁決
主 文 甲社会保険事務所長が、平成17年3月22日付で、再審査請求人に対し、平成17年1月4日から同月31日までの期間につき、健康保険法(以下「法」という。)による傷病手当金(以下、単に「傷病手当金」という。)の支給をしないとした処分を取り消す。
理 由 第1 再審査請求の趣旨 再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。 第2 再審査請求の経過 1 請求人は、平成15年7月4日から同年10月31日までの期間、頚椎椎間板ヘルニア(以下「既決傷病」という。)の療養のため、平成15年11月1日から同年12月31日までの期間及び平成16年2月1日から同年10月31日までの期間、既決傷病及び腰部脊柱管狭窄症の療養のため、平成16年11月1日から同年12月13日までの期間及び平成16年12月15日から同年12月31日までの期間、腰部脊柱管狭窄症及び頚部神経根症(以下、この頚部神経根症を「当該傷病」という。)の療養のため、いずれも労務に服することができなかったとして、傷病手当金の支給を受けていた。 2 請求人は、当該傷病の療養のため、平成17年1月1日から同月31日までの期間(以下「本件請求期間」という。)、労務に服することができなかったとして、平成17年3月17日(受付)、甲社会保険事務所長に対し、傷病手当金の支給を請求した。 3 甲社会保険事務所長は、平成17年3月22日付で、請求人に対し、本件請求期間のうち、平成17年1月4日から同月31日の期間(以下「本件係争期間」という。)については、法定給付期間(1年6月)を超えた請求であるとして、傷病手当金を不支給とする旨の処分(以下「原処分」という。)をした。 4 請求人は、原処分を不服として、〇〇社会保険事務局社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。 第3 問題点 1 傷病手当金の支給について、法第99条第1項には「被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金……を支給する」と規定され、また、同条第2項には「傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6月を超えないものとする」と規定されている。 2 本件の問題点は、本件係争期間に係る当該傷病が、既決傷病と同一傷病又はこれにより発した疾病でないと認められるかどうかということである。 第4 審査資料 「(略)」 第5 事実の認定及び判断 1 上記審査資料によれば、以下の各事実を認定することができる。 ⑴ 請求人は、平成15年5月26日、Dセンターを受診して、既決傷病と診断され(資料4-1)、同年7月8日、頚椎前方固定術の施行を受け(資料6)、平成15年7月4日から同年10月31日までの期間について、既決傷病の療養のため労務不能であったとして、3回に分けて、傷病手当金を受給した(資料1)。 ⑵ その後、請求人は、平成16年7月10日、B病院(以下「B病院」という。)を受診して、当該傷病と診断診され(資料4-2)、同年9月15日、B病院整形外科・永○恒○医師(同医師は、C病院整形外科主任教授を兼ねている。以下「永○医師」という。)から紹介されて、C病院整形外科を受診し、同傷病の診析のもとに、同年11月9日(なお、資料5によると、同月8日、手術とされている。)、頚椎片開き式脊柱管拡大術、C7/Th1椎間孔拡大、軟骨片摘出、C8神経根除圧の施行を受け、リハビリテーション治療を受療後、永○医師に再転医した(資料4-3及び同5)。 ⑶ 本件請求期間については、請求人は労務不能と判定されている。そして、主たる症状及び経過は、頚椎手術(平成16年11月9日)後リハヒリ中、両肩痛あり、とされ、症状経過からみて従来の職種(森林の測量等の事務)について労務不能と認められた医学的所見として、術後、リハビリを要した、とされている(資料2)。 ⑷ 調査・合議事績書(甲社会保険事務所長が平成17年5月24日付で作成したもの)の要旨は、次のとおりである。 照会事項:既決傷病と当該傷病との因果関係について。 回答内容(技官見解):同一疾病である。脊髄から張リ出した神経が穴から出ていく、それが圧迫されることにより痛みが生じる。また、頚部神経根症は骨の中に軟骨が形成され、それにより神経を圧迫されるものであり、ヘルニアがある者は、軟骨が出来る傾向にある。要は部位の違いのみで同一疾病である。 ⑸ 資料3の永○医師の回答書の要旨は、次のとおりである。 照会事項:既決傷病と当該傷病との間の因果関係について。 回答内容:請求人における因果関係についての問題は、Dセンターで手術を行った第6・第7頚椎間の椎間板ヘルニアとC病院で行った第7頚椎・第1胸椎間の病変及び頚椎脊柱管狭窄に対する片開き頚椎脊柱管拡大術の間に因果関係があるか否かである。 照会事項は、頚部神経根症という症状に対しての診断名とその原因疾患である椎間板ヘルニアという診断名に因果関係があるかとの質問であり、極めてナンセンスな質問である。 脊椎疾患における診断名(病名)は、症状による診断名(頚部神経根症、頚部脊髄症等)とその原因疾患の診断名(椎間板ヘルニア、頚椎症、脊髄腫瘍、炎症性疾患等)の2つがある。頚部神経根症の原因疾患のひとつが椎間板ヘルニアである。 D病院整形外科における加療は、すでに前方固定が行われている第6・第7頚椎間ヘルニアに対して行ったのではなく、第7頚椎・第1胸椎頚椎症性変化、頚椎脊柱管狭窄による頚部神経根症という症状に対する加療であるから、既決傷病と当該傷病との間に因果関係はないと判断する。ただし、平成15年7月8日にDセンターで行われた第6・第7頚椎間前方固定術の1椎間下である第7頚椎・第1胸椎間病変の発症に、前者が影響しているかという問題があるが、 この点に関しては不詳である。 照会事項:上記1の⑷の回答内容(技官見解)について。 回答内容:同一疾病であるとの見解は、症状とその原因疾患であるから正しい。 しかし、本件の争点は、第6・第7頚椎間ヘルニアと第7頚推・第1胸椎間病変(頚椎症性変化)が同一であるかであり、論点が異なる。 2 上記認定された事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。 ⑴ 前記1で認定したように、本件請求期間において、請求人は、当該傷病の療養のため、労務に服することができなかったと認められるところ、当該傷病に係る加療は、平成15年7月8日、Dセンターにおいて施行された頚椎前方固定術に係る既決傷病(第6・第7頚椎間ヘルニア)に対してなされたのではなく、第7頚椎・第1胸椎における頚椎症性変化、頚椎脊柱管狭窄による頚部神経根症に対する加療であり、本件においては、既決傷病と当該傷病との間に因果関係はないと判断するのが相当である。 ⑵ 以上のことから、本件請求期間に係る当該傷病は、既決傷病と同一傷病又はこれにより発した疾病でないと認めるのが相当である。 したがって、法定給付期間の1年6月は、当該傷病に関して傷病手当金の支給を始めた平成16年11月1日から起算すべきことになり、請求人が本件請求期間の一部を成す本件係争期間において、法定給付期間を超える請求であるということはできない。 ⑶ そうすると、原処分は妥当でなく、これを取り消さなければならない。 以上の理由によって、主文のとおり裁決する。