代理・代行による審査請求事件~容認事例~
平成27年(健)第〇〇〇号 平成28年7月29日裁決
主 文 〇〇健康保険組合理事長が、平成27年3月5日付で、再審査請求人に対してした、後記「理由」欄第2の2記載の原処分を取り消す。
理 由 第1 再審査請求の趣旨 再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、健康保険法(以下「法」という。)による傷病手当金(以下、単に「傷病手当金」という。)及び〇〇健康保険組合規約(以下「本件規約」という。)による傷病手当金付加金(以下、「傷病手当金付加金」といい、「傷病手当金」と併せて、便宜上、「傷病手当金等」という。)の支給を求めるということである。 第2 再審査請求の経過 1 請求人は、〇〇健康保険組合(以下「保険者組合」という。)が管掌する保険の被保険者であるところ、平成26年7月1日から同年8月31日までの期間(以下「本件請求期間A」という。)、平成26年9月1日から同年10月14日までの期間(以下「本件請求期間B」といい、「本件請求期間A」と併せて、「本件請求期間」という。)について、適応障害(以下「本件請求傷病」という。)の療養のため労務に服することができなかったとして、平成27年2月5日(受付)、保険者組合に対し、傷病手当金等の支給を請求した。 なお、本件記録によれば、請求人は、適応障害(以下「既決傷病」という。)の療養のため労務に服することができなかったとして、平成20年7月1日から平成21年12月31日までの期間(以下「既決支給期間A」という。)について、傷病手当金等の支給を受け、平成22年1月1日から同年3月31日までの期間(以下「既決支給期間B」といい、「既決支給期間A」と併せて、「既決支給期間」という。)について、本件規約による延長傷病手当金付加金の支給を受けている。 2 保険者組合は、平成27年3月5日付で、請求人に対し、本件請求期間については、既に平成20年7月から平成22年3月の間、当該傷病による休職をした際に傷病手当金を受給しており、同一疾病で2度目の受給が認められるのは、前回の疾病が、社会的治癒をした状態とみなされ場合に限り、厚生労働省の通達によると、社会的治癒とは医療を行う必要がなくなり、社会的に復帰している状態をいい、継続した治療状態にあるときは、一般社会における労働に従事している場合でも社会的治癒とは認められないことになっており、今回の場合、同一疾病の治療実績が継続して認められるため、社会的治癒したとはみなすことができないためという理由により、傷病手当金等を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。 3 請求人は、原処分を不服とし、社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。 第3 本審査会の判断 1 法第99条第1項は、傷病手当金の支給について、「被保険者(中略)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金(中略)を支給する」と定めており、また、同条第2項は、「傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6月を超えないものとする」と規定している。 そして、本件規約は、傷病手当金付加金に関し、第43条第1項において、被保険者が法第99条第1項の規定により傷病手当金の支給を受けるときは、その支給を受ける期間、傷病手当金付加金を支給すると規定し、延長傷病手当金付加金に関し、第44条第1項において、法第99条第1項の規定により傷病手当金の支給を受ける被保険者が法第99条第2項の規定による期間を経過したことによりその支給を受けられなくなった場合において、当該期間の経過後同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関し、療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができない期間、延長傷病手当金付加金を支給すると定め、同条第5項において、延長傷病手当金付加金は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関し、延長傷病手当金付加金の支給を始めた日から起算して12か月経過したときは、支給しないと定めている。 2 本件の場合、本件請求期間に係る本件請求傷病と既決支給期間に係る既決傷病とが、継続する同一の疾病であることについては、当事者間に争いはないと認められる(以下、「本件請求傷病」及び「既決傷病」のいずれをも「当該傷病」という。)ところ、前記第2の2記載の理由によりなされた原処分に対し、請求人は、平成21年12月中旬、Kメンタルクリニック・小〇栄〇医師(以下「小〇医師」という。)から復職の許可の診断書を得たが、事業所顧問医のAクリニックで復職審査を受けたところ、3か月間のリハビリ出勤が必要とされ、月1回の受診、薬物療法を継続しながら、平成22年4月に正式復帰し、同年7月からは残業・夜勤制限も解除され、通常勤務となり、その後約4年間にわたり通常勤務したとして、抑うつ症状が再燃した平成26年3月までの期間を社会的治癒の期間とした上で、本件請求期間について傷病手当金等の支給をすべきである旨主張しているのであるから、本件の問題点は、既決支給期間満了日の翌日である平成22年4月1日から本件請求期間開始日の前日である平成26年6月30日までの期間(以下「本件検討期間」という。)に、いわゆる社会的治癒と認められる期間があったかどうかということになる。 3 社会的治癒について判断する。 社会保険の運用上、過去の傷病が治癒した後再び悪化した場合は、再発として過去の傷病とは別傷病として取り扱い、治癒が認められない場合は、過去の傷病と同一傷病が継続しているものとして取り扱われるところ、医学的には治癒に至っていないと認められる場合であっても、軽快(あるいは寛解・完治)と再度の悪化との間に、いわゆる「社会的治癒」があったと認められる場合には、再発として取り扱われるものとされているが、「社会的治癒」があったと認め得る状態としては、相当の期間にわたって、医師の判断により医療(予防的医療を除く。)を行う必要がなくなり、通常の勤務に服しているなど社会復帰していることが認められる場合とされている。そうして、「社会的治癒」については、医学的治癒と同様に扱い、再度新たな傷病を発病したものとして取り扱うことが許されるものとされており、当審査会もこれを是認しているところ、本件についてこの点をみてみると、次のとおりである。 平成21年10月1日から平成22年3月31日までの期間に係る傷病手当金・傷病手当付加金請求書(以下「請求書」という。)の、Kメンタルクリニック・小〇医師作成の平成21年12月2日付、平成22年2月5日付、同年4月19日付「療養を担当した医師が意見を書くところ」欄(以下「医師意見欄」という。)によると、傷病名は当該傷病、発病又は負傷の原因は職場での昇格、発病又は負傷の年月日は平成20年1月頃、療養の給付を開始した年月日は平成20年3月26日、労務不能と認めた期間は平成21年10月1日から平成22年3月31日までの182日間、傷病の主状態及び経過概要について、平成21年10月1日から同年11月30日までの期間は「睡眠時無呼吸症の治療を開始以来、朝の目覚めがよくなり、気力・意欲も改善している。復帰の意思を示すが元の職場へのためらいがある」、平成21年12月1日から平成22年1月31日までの期間については、「規則正しい生活を送れるようになり、リハビリ的に出勤を開始している、徐々には出勤時間を長くしているが、慣れるまでが易疲労感も強く感じることがある」、平成22年2月1日から同年3月31日までの期間については、「リハビリ出勤をしていて、時折朝のだるさを感じたり、体力的にも辛い面もあるものの、徐々には慣れてきている状況にある」などとされている。 また、本件請求期間Aに係る請求書のJメンタルクリニック・竹〇淳〇医師(以下「竹〇医師」という。)作成の平成27年2月4日付医師意見欄及び本件請求期間Bに係る竹〇医師作成の同日付医師意見欄によると、いずれも、傷病名は当該傷病、発病又は負傷の原因は仕事でのストレス、労務不能と認めた期間はそれぞれ、本件請求期間A、本件請求期間Bとし、傷病の主状態及び経過概要は「H26年2月初旬頃より意欲減退を生じ、全身倦怠感も顕著になってきたため4/2より休職、自宅療養とした」とされている。本件検討期間における請求人に係る診療報酬明細書をみると、請求人は、診療開始日を平成20年10月10日、傷病名を当該傷病及び「うつ状態」として、平成22年10月まで、Kメンタルクリニックを受診していたが、平成23年1月24日からJメンタルクリニックに転医し、傷病名は当該傷病及び不眠症とされ、通院・在宅精神療法とともに、ベンゾジアゼピン系抗不安薬・中間型のレ〇ソ〇ン錠、フ〇ラ〇パ〇錠、不安時及び動悸時頓用としてア〇ゾ〇ム錠のみが処方されていた(なお、上記頓服剤は平成23年6月から8月まで、同年10月、11月、平成24年1月から7月まで、同年11月から平成25年2月まで、同年6月から8月まで及び同年10月以降は処方されていない。)が、平成26年3月からは、レ〇ソ〇ン錠に加えて、うつ病・うつ状態などを保険適用とする抗精神病薬のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(サ〇ン〇ル〇)、ベンザミド系抗精神病薬(ス〇ピ〇ド錠)が新たに投与開始されている。 また、〇〇〇薬局T店作成の請求人に係る調剤報酬明細書をみると、平成20年10月から平成22年10月まで、うつ病及びうつ状態に保険適用を有するセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬ト〇ド〇ン25mg錠4錠/日、四環系抗うつ薬のテ〇ラ〇ド錠10mg2錠(平成20年12月から平成21年9月15日までは3錠)/日、ベンゾジアゼピン系抗不安薬・短時間型のデ〇ス〇錠などが処方されていたこと(なお、テ〇ラ〇ド10mgは、平成20年11月から平成22年9月まで。)が認められる。 以上のような本件検討期間における請求人の当該傷病に係る推移をみると、既決受給期間終了日の翌日である平成22年4月から同年10月までは、抗うつ薬としてト〇ド〇ン錠(注:うつ病治療薬として許容されている1日100mgに相当する容量を継続して投与されている。)、テ〇ラ〇ド錠を処方されていたが、既に、平成21年12月1日から平成22年1月31日までの期間は、規則正しい生活を送れるようになっていたとされ、リハビリ的に出勤を開始し、易疲労感も強く感じることがあったが、徐々に出勤時間を長くしていた時期であり、また、平成22年2月1日から同年3月31日までの期間は、リハビリ出勤していて、時折朝のだるさを感じ、体力的に辛い面もあるが、徐々に慣れてきている状況にあったとされた時期であり、平成23年1月にJメンタルクリニックに転院してからは、それまで服用していた抗うつ薬のト〇ド〇ン錠あるいはテ〇ラ〇ド錠は全て中止されて、抗不安薬・睡眠薬(レ〇ソ〇ン錠など)のみの処方で、必要な場合には不安時・動悸時の頓服剤を併せて処方しつつ、経過を観察されていたが、平成26年3月から、再び抗うつ薬としてサ〇ン〇ル〇、ス〇ピ〇ド錠が開始されていることが認められる。そうすると、本件検討期間のうち、少なくとも平成23年1月から平成26年1月までの約3年間について、請求人は、医師の指示に従って全ての抗うつ薬服用が中止されており、その間は抗不安薬・睡眠薬のみで予防的に経過観察されていたことから、相当な期間にわたって、医師の判断により医療(予防的医療を除く。)を行う必要がなくなり、かつ、請求人に係る給与明細書及び勤務状況表(勤怠)によれば、通常の勤務ができていたものと認められるのであるから、当該期間を社会的治癒の期間と認めるのが相当である。 4 そうすると、本件の傷病手当金の請求を法定給付期間を超える請求であるとして、これを支給しないとした原処分は相当ではなく、これを取り消すこととし、主文のとおり裁決する。