代理・代行による審査請求事件~容認事例~
平成28年(健)第〇〇〇号 平成29年1月31日裁決
主 文 後記「理由」欄第2の2記載の原処分を取り消す。
理 由 第1 再審査請求の趣旨 再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、健康保険法(以下「法」という。)による傷病手当金(以下、単に「傷病手当金」という。)の支給を求めるということである。 第2 再審査請求の経過 1 請求人は、うつ病及び身体表現性障害(以下、併せて「当該傷病」という。)の療養のため労務に服することができなかったとして、平成27年10月3日から同月31日までの期間(以下「申請期間A」という。)について同年11月20日(受付)に、同年11月1日から同月30日までの期間(以下「申請期間B」という。)について同年12月18日(受付)に、同年12月1日から同月31日までの期間(以下「申請期間C」といい、申請期間A及び申請期間Bと併せて「本申請期間」という。)について平成28年1月29日(受付)に、〇〇健康保険組合理事長(以下「理事長」という。)に対し、傷病手当金の支給を申請した。 なお、請求人は、自律神経失調症(以下「既支給傷病」という。)による療養のため労務に服することができなかったとして、平成18年11月24日から平成19年3月15日までの期間について、傷病手当金の支給を受けていた。 2 理事長は、請求人に対し、申請期間Aについて、平成28年1月26日付で、「10/3―31(29日間)法定給付期間満了日超えのため不支給。(今回申請のありました「うつ病」「身体表現性障害」は、平成18年11月24日~平成19年3月15日まで受給されていた「自律神経失調症」と関連性のある傷病である為。)として、申請期間Bについて、平成28年1月26日付で、「11/1―30(30日間)法定給付期間満了日超えのため不支給。(今回申請のありました「うつ病」「身体表現性障害」は、平成18年11月24日~平成19年3月15日まで受給されていた「自律神経失調症」と関連性のある傷病である為。)として、申請期間Cについて、平成28年2月1日付で、「12/1―31(31日間)法定給付期間満了日超えのため不支給。(今回申請のありました「うつ病」「身体表現性障害」は、平成18年11月24日~平成19年3月15日まで受給されていた「自律神経失調症」と関連性のある傷病である為。)として、それぞれ傷病手当金を支給しない旨の3個の処分(以下、併せて「原処分」という。)をした。 3 請求人は、原処分を不服として、社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。 第3 問題点 1 傷病手当金の支給については、法第99条(平成27年法律第31号による改正前のもの)第1項に「被保険者(……)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金……を支給する」と規定されており、傷病手当金の支給期間については、同条第2項に、「傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6月を超えないものとする」と規定されている。 2 本件の問題点は、本申請期間が前記の法定給付期間を超えた申請であると認めることができるかどうかである。 第4 審査資料 「(略)」 第5 当審査会の判断 1 「略」 2 前記のとおり認定された事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。 ⑴ 前記の法第99条第2項に規定されている「同一疾病」とは、一つの疾病の発症から治癒までをいうものであるが、断続して療養を受けても同一疾病の継続しているものは一疾病とし、医師の付した病名が異なる場合でも、疾病そのものが同一であることが明らかである場合は、同一の疾病に該当するとされている。 また、ここでいう治癒とは、医学的に厳密な治癒のほか、「社会的治癒」を含むとされており、社会的治癒とは、医学的判断としては未だ治癒したとはいえない場合でも、臨床的に症状がなくなり、あるいは安定した状態に固定し、かつ、このような状態が相当期間継続し、その間一般人と同様、労務に服することができた場合には、疾病が治癒したとみる考え方である。 したがって、この社会的治癒が認められるときは、医学的には治癒と認められない場合であっても、その後の症状の再燃は再度の発病として、同一疾病には該当しないものとされるのである。 なお、同項に規定される「これにより発した疾病」とは、同一系統のものであるか否かを問わず、ある傷病を原因として発した疾病をいうが、直接的、医学的因果関係があることが必要であるとされている。 そして、同項に規定される「…1年6月」とは、1年6か月分の傷病手当金が支給されるということではなく、その支給を始めた日から起算して1年6か月という期間(その間に労務可能となった期間を含む。)とされている。 ⑵ 請求人は、本申請期間について、当該傷病の療養のため労務に服することができなかったとして傷病手当金の支給を申請したが、理事長は、本申請期間については法定給付期間を超えた申請であるためとして、傷病手当金を支給しない旨の処分をしたものである。 これに対し、請求人は再審査請求の趣旨及び理由で、請求人には、平成19年4月から平成27年4月までの8年余にわたる社会的治癒と認められるべき状況が存在したというべきであり、平成27年6月7日を初診として、当該傷病(うつ病、身体表現性障害)は既支給傷病とは別傷病として取り扱うべきであると述べているので、まず、既支給傷病(自律神経失調症)と当該傷病(うつ病及び身体表現性障害)が同一の疾病といえるかどうかについて検討する。 資料1によると、傷病名は当該傷病とされ、その発病又は負傷の年月日は平成18年1月頃とされ、療養の給付を開始した年月日は、「平成19年4月21日」とされており、資料4によると、Nクリニック野〇敏〇医師(以下「野〇医師」という。)は「本患者さんはH26.6/7当院初診にて、これまでの診療経過からは、ストレス耐性に乏しい方で、ストレス状況に反応して心身不調を来し、うつ状態に自律神経失調症状や筋痛症状等々の身体的症状が様々なレベルで出没します。それ故に、メンタル面からはうつ病、身体面からは身体表現性障害として、その両面から加療してきました。本人の話からは、H18年~H19年の病態も職場内ストレスの関与した病態と考えられます。従って、当時と今回は同質のメカニズム(ストレスによる心身反応)と考えてよいと思います。」と回答していることを考えると、既支給傷病と当該傷病は同じものであると考えていると認められる。 そこで、次に、請求人が職場復帰した平成19年4月からうつ病が再発した平成27年5月までの期間について、社会的治癒と認めることができる期間が存したかどうか検討する。 資料2によると、請求人は、職場復帰したとされる平成19年4月から月に1回ないし2回又は2か月ごとにNクリニックを受診し、資料3で示されているとおり、平成22年12月から平成27年11月までの投薬内容は、リ〇ミ〇錠2mg/1日1錠、カ〇ム〇ン錠0.4mg/1日2錠(平成27年8月まで)が処方され、平成24年9月からはパ〇シ〇錠12.5mg/1日1錠、が追加して処方されていることが認められる。また、平成27年6月からグ〇ン〇キ〇錠、同年9月からア〇プ〇ゾ〇錠の処方が開始され、同年8月に都合・病気休暇を取得し、その後労務不能の期間として本申請期間について傷病手当金の支給申請を行っていることが確認できる。 したがって、職場復帰した後の期間も、通院や投薬が継続していたのであるが、処方されている薬剤をみると、抗不安薬カ〇ム〇ン錠、抗うつ薬パ〇シ〇錠の保険調剤の用法・用量の最小の範囲内の投薬を行っており、通院頻度も月1回ないし2回、2か月ごとであったことを踏まえると強力な抗うつ作用を目的として処方された薬ではないということができ、それは、症状の安定した状態を維持し、再燃を防ぐための通院であり、投薬であったと認めるのが相当である。 次に資料5により、請求人が職場復帰していた期間の勤務状況をみると、平成19年4月から平成27年6月までは、就業時間どおり勤務し、時間外労働、さらには深夜勤務を行い、休暇も有給休暇の範囲内であり、都合・病気休暇は平成19年4月に2日、同年12月に1日、平成20年1月に2日、同年4月に1日、平成21年11月に5日、平成22年2月に4日、同年3月に3日のみである。しかし、平成27年7月に有給休暇を22日取得し、同年8月は有給休暇を2日と都合・病気休暇16日、同年9月は16日の都合・病気休暇、同年10月は都合・病気休暇19日を取得し、ほぼ出勤することができない状態になっている。 そうすると、少なくとも、平成27年6月までは、一般人と同様に勤務し、時間外労働、深夜勤務も行っていたものであり、その後症状の再燃に至ったものと認めることができる。 ⑶ 以上によれば、請求人が復職した後の平成19年4月から平成27年6月ころまでの期間は、社会的治癒と認められる状態にあったものというべきであり、当該傷病は既支給傷病と同一の疾病ではないと認めるのが相当である。 3 したがって、当該傷病が既支給傷病と同一の疾病であるとして、本申請期間に係る傷病手当金につき、法定給付期間を超えた期間に係るものであることを理由に支給しないとした原処分は相当とはいえない。 よって、原処分を取り消すこととして、主文のとおり裁決する。