代理・代行による審査請求事件~容認事例~

平成28年(健)第〇〇〇号,平成28年(健)第〇〇〇〇号  平成29年6月30日裁決

             主      文
後記「事実」欄第2の2の⑷記載の原処分を取り消す。

             事      実
第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、健康保険法(以下「法」という。)による傷病手当金(以下、単に「傷病手当金」という。)の支給を求めるということである。
第2 事案の概要
1 事案の概要
本件は、末期腎不全の療養のため労務に服することができなかったとして、平成27年8月1日から同年12月31日までの期間について、傷病手当金の支給を請求した請求人に対し、〇〇健康保険組合(以下「保険者組合」という。)が、傷病手当金を支給しない旨の処分をしたことに対し、請求人は、これを不服として、社会保険審査官に対する審査請求をしたが、同審査官により、処分は妥当であるとして棄却されたため、当審査会に対し、再審査請求をした事案である。
2 本件再審査請求に至る経緯
本件記録によると、請求人が本件再審査請求をするに至る経緯として、次の各事実が認められる。
⑴ 請求人は、慢性腎不全、高血圧症、高尿酸血症、及び慢性貧血の療養のため労務に服することができなかったとして、平成26年9月1日から同年11月4日までの期間について、また、末期腎不全(以下「当該傷病」という。)の療養のため労務に服することができなかったとして、同年11月5日から平成27年7月31日までの期間について、保険者組合からそれぞれ傷病手当金の支給を受けていた。
なお、請求人は、平成26年9月1日付で法による被保険者資格を喪失し、同日付で任意継続被保険者資格を取得している。
また、請求人は、平成27年5月14日付で、腎疾患による傷病による障害について、受給権を取得した年月を同年3月とする障害等級2級の障害厚生年金及び障害基礎年金の受給権を取得し、同年4月からそれらを受給している。
⑵ 請求人は、当該傷病の療養のため労務に服することができなかったとして、平成27年8月1日から同月31日までの期間(以下「請求期間A」という。)及び同年9月1日から同月30日までの期間(以下「請求期間B」という。)について、同年10月8日(受付)、同年10月1日から同月31日までの期間(以下「請求期間C」という。)について、同年11月9日(受付)、同月1日同月30日までの期間(以下「請求期間D」という。)について、同年12月10日(受付)、同月1日同月31日までの期間(以下「請求期間E」という。)について、平成28年1月13日(受付)、保険者組合に対し、それぞれ傷病手当金の支給を請求した。
⑶ その後、請求人は、当該傷病の療養のため労務に服することができなかったとして、平成28年1月1日から同月31日までの期間(以下「請求期間F」という。)及び同年2月1日から同月29日までの期間(以下「請求期間G」という。)について、同年3月10日(受付)、保険者組合に対して、それぞれ傷病手当金の支給を請求した。
⑷ 保険者組合は、平成28年1月28日付で、請求人に対し、請求期間Aのうち、平成27年8月1日について、一部不支給とする理由を「厚生年金保険法による障害年金又は障害手当金を受けているため。(健康保険法第108条)」、同月2日について、不支給とする理由を「当該傷病について療養のため労務に服することができないとは認められない。(健康保険法第99条)」、同年8月3日から同月31日までの期間について、不支給とする理由を「健康保険法第104条に該当しないため。」として、傷病手当金を一部ないし全部支給しない旨の処分(以下、このうち、同月1日に係る一部不支給とする部分を「一部不支給処分」といい、一部不支給処分を除くその余の部分を「処分A」という。)をした。さらに、同日付で、請求期間B、請求期間C、請求期間D及び請求期間Eについて、それぞれ不支給理由を「今般、請求のあった傷病手当金(傷病名)「慢性腎不全」について、健康保険法第104条に該当しないため。」として、いずれも傷病手当金を支給しない旨の4個の処分(以下、この4個の処分と処分Aを併せて「処分1」という。)をした。
また、保険者組合は、平成28年5月25日付で、請求人に対し、請求期間F及び請求期間Gについて、不支給とする理由を「健康保険法第104条に該当しないため。」として、いずれも傷病手当金を支給しない旨の2個の処分(以下、この2個の処分と処分1とを併せて「原処分」という。)をした。
⑸ 請求人は、原処分を不服として、社会保険審査官への審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。

             理      由
第1 問題点
1 傷病手当金の支給については、法第99条第1項において、被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給するとされ、また、被保険者資格喪失後の傷病手当金の継続給付については、法第104条において、被保険者の資格を喪失した日の前日まで引き続き1年以上被保険者であった者であって、その資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる旨が定められている。
2 本件の場合、請求人が法による被保険者資格を平成26年9月1日で喪失し、同日付で任意継続被保険者資格を取得していること、及び平成27年8月1日に係る一部不支給処分については、当事者間に争いはなく、保険者組合が行った「事実」欄第2の2の⑷記載の平成27年8月2日について、療養のため労務に服することができないとは認められないとし、平成27年8月3日から平成28年2月29日までの期間(以下「本請求期間」という。)について、法第104条に該当しないためとして、それぞれ傷病手当金を支給しないとした原処分に対し、請求人は、これを不服としているのであるから、本件の問題点は、まずは、平成27年8月2日において、当該傷病の療養のため労務に服することができなかったと認められないかどうかであり、これが認められる場合は、本請求期間が法定給付期間内にあれば、法第104条の規定に該当するのであるから、本請求期間について、当該傷病の療養のため労務に服することができなかったと認められるかどうかである。
第2 審査資料
 「(略)」
第3 事実の認定及び判断
1 「略」
2 前記認定の事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
⑴ まず、平成27年8月2日について、当該傷病による療養のため労務に服することができなかったか否かについて検討するに、本件記録によると、請求人は平成26年12月24日から平成27年7月31日までの期間について、当該傷病に対して週3回、1回3時間の血液透析が施行されていることが認められる。
請求期間Aにおいては、週3回、1回3時間の透析中であるが、病態によっては透析時間の延長(4時間以上)も考慮に入れている(資料1-1)とされており、同年8月4日の検査結果は、透析効率は不十分で、腎性貧血の改善も乏しく、透析時の血圧も140~150mmHg/70~80mmHgと若干高めである。また、同年9月8日の検査結果は尿量低下に伴い透析前のBUNが増悪し、急な動悸の訴えがあり横になって休むことが多く、収縮期血圧も150mmHg以上が多くなっている。同年10月6日の検査結果で透析前のBUNはさらに上昇し、血圧も150~180mmHg/80~100mmHgと上昇し、この急上昇に対し降圧剤を増量・追加され、同月13日から透析時間は1回4時間に延長されている(資料3-2)。そして、降圧剤の追加に関しては、資料4において確認できる。
以上の経過から考えると、同年8月2日の状態は、透析時間中には特段トラブルはないものの、血圧の上昇、透析後の頭重感や倦怠感があり、透析後は横になることが多いなどの症状があり、週3回、1回3時間の透析では尿毒症の症状が解消されていない状態であったと認めるのが相当である。
労務不能か否かの判断基準は、「必ずしも医学的基準によらず、その被保険者の従事する業務の種別を考え、その本来の業務に耐えうるか否かを標準として社会通念に基づき認定する」(昭和31年11月19日保文発第340号)とされているところ、請求人は、生産担当執行役員工場長であり、工場全体の統括管理者として、毎日6時から18時まで、しかも、休日も月に0~2回、6時間程度出勤していた(資料2)とされていたのであるから、たとえ健康体であったとしても相当重労働であったと考えられる。
そうすると、請求人は週3回、1回3時間の透析時間では十分な透析効果が得られず、尿毒症の症状が現れていたのであるから、T内科医院竹〇有〇医師が、血液透析日以外の日に、上述のような従前の職種について復帰することは無理であり、就労の見込みが現時点で不明であると判断したことは、医師として当然である。
したがって、平成27年8月2日は、当該傷病の療養のため労務に服することができない状態であったと認めるのが相当である。
なお、保険者は、透析前後の血中BUNの値から透析効果が出ていると主張しているが、BUNの体内蓄積という場合は体液中のBUNの蓄積をいうのであり、単に血中のBUN濃度のみで判断することはできず、透析によって除水が十分に行われていたかを含め、総合的に判断することが必要であり、血圧の上昇、頭重感や倦怠感等の症状が透析効率の大きな目安になると考えられる。したがって、保険者の上記主張は失当である。
⑵ 平成27年8月2日が、当該傷病の療養のため労務不能であったと認められるのであるから、同月3日以降の期間について、法第104条に該当しないとして、不支給とされた処分は取り消されなければならない。そこで、本請求期間が、法定給付期間内か否かについて検討するに、請求人の当該傷病に対する傷病手当金の支給開始日は平成26年9月1日であることから、法定給付期間満了日は平成28年2月29日となり、本請求期間(平成27年8月3日から平成28年2月29日まで)は法定給付期間内であると認められる。
以下、改めて本請求期間について、当該傷病の療養のため労務に服することができなかったか否かについて検討するに、平成27年10月13日から1回の透析時間が4時間に延長された後も、透析後の頭重感、ふらつきなどの症状を認めることがあり、帰宅後横になることが多く(資料1-4)、請求期間Eにおいても、透析後の頭重感は続いているため、自宅でも休んでいることが多い様子で、血圧上昇も認め、降圧剤の増量で対応しているとされている(資料1-5)。また、請求期間F及び請求期間Gにおいても、ほぼ同様の記載があり、特に平成28年1月ころより貧血進行を認め、労作時の息切れなどの症状も出現しており(資料1-6及び資料1-7)、さらに、貧血に関しては平成28年2月5日の検査で赤血球数が281万/μLと貧血が続いているのである(資料5)。
そうすると、請求人は、本請求期間について、週3回、1回3時間の透析から1回4時間の透析に変更した後も、尿毒症の症状が継続し、貧血が改善していないのであるから、当該傷病の療養のため労務に服することができなかったと認めるのが相当である。
⑶ 以上によれば、請求人には、平成27年8月2日及び本請求期間について、当該傷病の療養のため労務に服することができなかったとして、傷病手当金を支給しなければならない。よって、原処分は妥当でないので、これを取り消すこととし、主文のとおり、裁決する。

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