代理・代行による審査請求事件~容認事例~

平成29年(健)第〇〇〇号  平成30年8月31日裁決

             主      文
 後記「事実」欄第2の2⑶記載の原処分を取り消す。

             事      実
第1 再審査請求の趣旨
 再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、健康保険法(以下「法」という。)による傷病手当金(以下、単に「傷病手当金」という。)の支給を求めるということである。
第2 事案の概要
1 事案の概要
 本件は、後記2⑵記載の当該傷病の療養のため労務に服することができなかったとして、傷病手当金の請求をした請求人に対し、〇〇健康保険組合(以下「保険者組合」という。)が、平成29年7月13日付け、同年9月13日付け及び同月25日付けで、いずれも傷病手当金を支給しない旨の処分をしたところ、請求人が、同処分を不服として、標記の社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をしたという事案である。
2 本件再審査請求に至る経緯
 本件記録によると、請求人が本件再審査請求をするに至る経緯として、次の各事実が認められる。
⑴ 請求人は、うつ状態(以下「既決傷病」という。)の療養のため労務に服することができなかったとして、平成22年11月22日から平成23年5月31日までの期間について、東京○○健康保険組合(以下「前組合」という。)から傷病手当金の支給を受けていた。
⑵ 請求人は、うつ病(以下「当該傷病」という。)の療養のため労務に服することができなかったとして、平成29年3月6日から同年4月6日までの期間(以下「請求期間①」という。)について、同月21日(受付)、及び同月7日から同年8月8日までの期間(以下「請求期間②」という。)について、同年8月31日(受付)、同年8月9日から同月31日までの期間(以下「請求期間③」といい、請求期間①及び請求期間②と併せて「本件請求期間」という。)について、同年9月22日(受付)、保険組合に対し、それぞれ傷病手当金の支給を請求した。
⑶ 保険組合は、請求期間①について平成29年7月13日付けで、請求期間②について同年9月13日付けで、請求期間③について同月25日付けで、請求人に対し、いずれも「法定期間1年6ヶ月を超えているため」との理由により、傷病手当金を支給しない旨の3個の処分(以下、併せて「原処分」という。)をした。
⑷ 請求人は、原処分を不服とし、標記の社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。

             理      由
第1 問題点
1 傷病手当金の支給については、法第99条において、被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給すると規定されており、傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6月を超えないものとすると規定されている。
2 本件の場合、保険組合が前記「事実」欄第2の2⑶記載の理由で行った原処分に対し、請求人はこれを不服としているのであるから、本件の問題点は、本件請求期間が法定給付期間を超えた請求であると認められるかどうかということである。
第2 審査資料
 「(略)」
第3 事実の認定及び判断
1 「略」
2 前記認定の事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
⑴ 当該傷病と既決傷病との関連性について、阿○医師は「ストレス因は違いますが一連の関連した病態と考えております。」と、中〇医師は「関連した病態であることを否定するのは困難である。」とそれぞれ回答していることから、既決傷病と当該傷病は同一疾病であると考えられる。
 なお、社会保険の運用上、医学的には当初の傷病が治癒していない場合であっても、いわゆる社会的治癒と認められる状況が認められるときは、再度発病したものとして取り扱われているところ、社会的治癒があったといい得るためには、医療の面からは、予防的治療を除いて医療を行う必要がなくなり、無症状で経過していること、また、社会生活の面からは、相当の期間において正常の社会生活あるいは勤務に服する等の要件を満たすことが必要とされている。
 そこで、請求人が前勤務先に職場復帰した平成23年6月から当該傷病が再発した平成29年2月までの期間について、社会的治癒と認めることができる期間が存したかどうかを検討する。
 資料4-1によると、請求人は、診療開始日を平成23年4月30日とする「神経症(主)」、診療開始日を平成22年10月22日とする「不眠症」により、平成26年6月から平成29年2月までの期間において、毎月1日(平成27年10月及び平成29年2月のみ2日)○○クリニックを受診している。資料3-2において、阿○医師は、平成23年6月から平成29年2月までの療養状況について「平成23年6月に復職。・・・・・平成25年9月に退職。・・・・・平成26年6月に再就職。平成29年2月に休職を指示。この間、定期通院され、睡眠薬、抗不安薬の処方を受けていた。状況次第で疲労感、倦怠感が出現する、などの波はあったが、概ね落ち着いた状態が続いていた。・・・・」と回答しており、資料5-1によると、請求人は、平成26年6月から平成29年2月までの間、平成29年2月に気分安定薬であるリーマス錠が処方されているものの、抗不安薬としてワイパックス錠、レキソタン錠が、催眠鎮静薬としてマイスリー錠、レンドルミンD錠が、それぞれ処方されているが、その用量は下限のレベルであり、抗うつ薬の投与はされていないのであるから、医学的な治癒とはいえないとしても、請求人に対するこの間の投薬治療は、予防的投薬の範ちゅうを超えるものではないと認められる。
 また、資料6及び7によると、平成23年6月から平成25年9月まで及び平成26年6月から平成29年2月までのそれぞれの期間における請求人の勤怠状態は、欠勤日数もなく、通常の給与が支払われていることが認められ、なおかつ平成26年6月から平成29年2月までは残業(深夜残業を含む。)や休日出勤をしていたことが認められる。
 そうすると、平成25年10月から平成26年5月までの間は退職し失業保険を受給していたため、この期間を除外するとしても、少なくとも、平成26年6月から平成29年2月までは、一般人と同様に勤務し、時間外労働も行っていたことが明らかである。
⑵ 以上によれば、平成26年6月から平成29年2月までの2年9か月の期間は、社会的治癒と認められる状態にあったものというべきであり、当該傷病は既決傷病と同一の疾病ではないと認めるのが相当である。
3 したがって、当該傷病が既決傷病と同一の疾病であるとして、本件請求期間に係る傷病手当金につき、法定給付期間を超えた期間に係るものであることを理由に支給しないとした原処分は相当とはいえない。
 よって、原処分を取り消すこととして、主文のとおり裁決する。

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