障害年金-社会保険審査会裁決例
平成14年(厚)第〇〇号 平成15年1月31日裁決
主 文 社会保険庁長官が、平成13年6月28日付で、(亡)佐〇A夫に対し、障害等級2級の障害基礎年金及び障害厚生年金を支給するとした処分はこれを取り消し、再審査請求人に対し未支給の障害等級1級の障害基礎年金及び障害厚生年金を支給する。
理 由 第1 再審査請求の趣旨 再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。 第2 再審査請求の経過 1 亡佐〇A夫(以下「亡A夫」という。)は、特発性間質性肺炎(以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、平成12年11月20日(受付)、社会保険庁長官に対し、障害基礎年金及び障害厚生年金の裁定を請求した。 2 社会保険庁長官は、平成13年1月25日付で、亡八夫に対し、裁定請求書に添付された診断書を診査した結果、裁定請求日における障害の状態は、厚生年金保険法施行令(以下「厚年令」という。)別表第1に定める3級の程度に該当するとして、平成12年12月から3級の障害厚生年金を支給する旨の処分(以下「先行処分」という。)をした。 3 亡A夫は、先行処分を不服として、平成13年2月6日(受付)、〇〇社会保険事務局社会保険審査官(以下「審査官」という。)に対し審査請求をした。 4 社会保険庁長官は、平成13年6月28日付で、亡A夫に対し、先行処分を取り消し、裁定請求日における障害の状態は、国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表に定める2級の程度に該当するとして、平成12年12月から2級の障害基礎年金及び障害厚生年金を支給する旨の処分(以下「原処分」という。)をした。 5 亡A夫は、原処分後も、なお障害等級1級の障害基礎年金及び障害厚生年金の支給を求めて前記審査請求を維持したが、平成13年10月21日に死亡したため、亡A夫の妻である請求人佐〇A子がその地位を受継した。 6 審査官は、平成13年11月30日付で、原処分は妥当であるとして、この審査請求を棄却する旨の決定をした。 7 請求人は、なおこの決定を不服とし、佐〇B夫を再審査請求代理人に立てて、当審査会に対し再審査請求をした。請求人及び再審査請求代理人は、本件公開審理に出席した。 第3 問題点 1 障害等級1級の障害基礎年金及び障害厚生年金は、障害の状態が国年令別表に定める1級の程度に該当しない場合には支給されないことになっている。 2 本件の問題点は、裁定請求日における亡A夫の当該傷病による障害の状態が国年令別表に定める1級の程度に該当すると認めることができるかどうかということである。 第4 審査資料 本件の審査資料は、次のとおり(いずれも写)である。 資料1 裁定請求書に添付されたA大学医学部附属病院(以下「A大学病院」という。)遺伝子・呼吸器内科石〇修〇医師(以下「石〇医師」という。)作成の診断書(平成12年11月16日付) 資料2 裁定請求書に添付されたB県立病院酒〇俊〇医師作成の受診状況等証明書(平成12年11月22日付) 資料3 裁定請求書に添付された請求人作成の病歴・就労状況等申立書(平成12年12月10日付。以下「申立書」という。) 資料4 審査官の照会に対する石〇医師作成の回答書(平成13年5月19日付。審査官平成13年5月22日受理第13号) 資料5 審査官の照会に対する石〇医師作成の回答書(平成13年8月28日付) 資料6 A大学病院遺伝子・呼吸器内科高○洋医師(以下「高○医師」という。)作成の身体障害者診断書(平成12年12月14日付) 第5 事実の認定及び判断 1 前記審査資料を総合すると、次の事実が認められる。 ⑴ 厚生年金保険の被保険者であった亡A夫は、平成8年の(職場)検診にて胸部異常影を指摘されていたが、同10年の検診でもチェックされ、B県立病院を初診し、当該傷病の診断のもと同病院及び近医のC町国民健康保険病院で入院及び外来にて、鎮咳剤などの対症療法(一時期、無治療で経過観察していたこともあった。)のみ行っていた。平成12年10月31日からは、D大学病院へ紹介入院し、精密検査及びムコフィリン吸入で加療を受けながら当該傷病が適応症である肺移植の登録も行っていた(資料1~3及び6)。 ⑵ 石〇医師作成の診断書(呼吸器疾患の障害用)によると、裁定請求日当時における亡A夫の当該傷病による障害の状態等は、次のとおりである(資料1)。 ア 機能判定による障害認定 身体計測(平成12年11月1日):身長167.7cm、体重67.9kg 活動能力の程度:ⅱ エ ゆっくりでも少し歩くと息切れがする。 胸部X線所見(A):(所見スケッチは省略。)繊維化は、高。胸膜癒着、気腫化、不透明肺、胸廓変形及び心縦隔の変形は、いずれもなし。 換気機能(平成12年11月7日現症):肺活量実測値 1.95ℓ 肺活量予測値 3.59ℓ 1秒量 1.65ℓ 予測肺活量1秒率 46.0% 動脈血O₂分圧 61㎜Hg 動脈血CO₂分圧 42.1㎜Hg イ 病状判定による障害認定: 自(他)覚症状:咳及び痰は有。胸痛、悪寒、盗汗及ぴぜんめいは、無。食欲及び栄養状態は、中。体温 36.5 呼吸数 30 脈拍数 60 血圧最大105,最小60。 その他の障害又は症状の臨床所見:6分間歩行にSpO277%まで低下。 現症時の日常生活活動能力又は労働能力:現在、長い会話でも呼吸困難が生じ、Hugh-JonesIV°~V°の状態である。そのため、日常生活、労働にはかなりの支障がある。 ⑶ 審査官の照会に対する石〇医師作成の回答書2通の主要部分は、次のとおりである(資料4及び5)。 ア 平成12年11月の入院時すでにHugh-JonesV°の呼吸困難があり、安静時(臥床20分間)の血液ガスではPaO261.0Toor, PaCO242.1Toorと比較的良好ですが、労作後の血液ガスでは(歩行3分間)PaO233.1Toor, PaCO243.3ToorとPaO2が著明に低下しております。労作後の血液ガスは平成12年12月13日に採取したものですが、11/16の時点で採取しても同様の結果であることは、歩行時のPaO2が77%であったことより容易に判断できます。また。24hPaO2モニターでもPaO280%以下が1.4%、90%以下が14.6%であり、酸素2ℓ投与下であっても24hのうち約4hはSpO2が90%以下(=PaO260Toor以下)であり、病院内の限られた行動においても制限を受けていることは明らかです。これは12/7のdataですが、11/16に行っても同様のdataです。従って障害の程度は、11/16の時点て1級と考えてよいと思います。 イ 平成12年11月20日における亡A夫の障害の状態は、一般状態区分が、「身のまわりのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要とする。」であったことを確認する。 ⑷ D大学病院の高〇医師作成の亡A夫に係る身体障害者診断書(呼吸器障害者用)によると、平成12年11月22日現症の総合所見は、次のとおりである(資料6)。 特発性間質性肺炎の末期であり、Hugh-JonesV°の呼吸困難を認める。室内気でSpO233.9Toorまで下降し、1級相当と考えられる。 2 前記認定された事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。 ⑴ 亡A夫の当該傷病は、特定疾患治療研究事業の対象にもなっているいわゆる難病であるが、このような疾患による障害により1級の障害基礎年金及び障害厚生年金が支給される程度の障害の状態として、国年令別表に「前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの(1級9号)」が規定されている。 ところで、社会保険庁では、国民年金法及び厚生年金保険法による障害の程度を認定する基準として「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)を定めているが、給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準に依拠するのが相当であると考える。 ⑵ 前記1で認定された事実を、この認定基準の第1章第10節/呼吸器疾患及び第18節/その他の障害に記載されている認定要領に照らして検討すると、次のとおりである。亡A夫の当該傷病は、数か月単位で亜急性に病状が進行していて裁定請求日当時すでに当該傷病の末期にあり、石〇医師作成の診断書によると、活動能力の程度は「エ ゆっくりでも少し歩くと息切れがする」に該当していたし、動脈血酸素分圧も平成12年11月7日には中等度異常の数値を示していたが、同月16日にはすでに高度異常の水準に達していたことが、同医師作成の回答書及び高〇医師作成の診断書により裏付けられていることから、「動脈血ガス分析値に高度の異常があるもの」に該当していたと判断するのが相当である。また、同年11月20日における亡A夫の一般状態区分は、「身のまわりのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている」に該当していたことが、石〇医師によって確認されている。このようにみてくると、裁定請求日における亡A夫の当該傷病による障害の状態は、1級の程度に該当していたと判断できる。 ⑶ そうすると、亡A夫に対して、障害等級2級の障害基礎年金及び障害厚生年金を支給するとした原処分は妥当を欠くものであるから取消しを免れず、これに対する不服申立てにつき手続を受継し、自已に対する未支給給付を求めている請求人に対して1級の障害基礎年金及び障害厚生年金が支給されるべきである。 以上の理由によって、主文のとおり裁決する。