傷病手当金-社会保険審査会裁決例

平成17年(健)第218号  平成18年6月30日裁決

             主      文
甲健康保険組合理事長が、平成16年10月8日付で、再審査請求人に対し、健康保険法による傷病手当金を支給しないとした処分を取り消す。

             理      由
第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。
第2 再審査請求の経過
1 請求人は、悪性リンパ腫(以下「前回傷病」という。)の療養のため、平成12年10月4日から平成13年4月15日までの期間(以下「支給済期間」という。)労務に服すことができなかったとして、甲健康保険組合(以下「保険者組合」という。)から健康保険法による傷病手当金(以下、単に「傷病手当金」という。)を受給した。
2 請求人は、心不全・脳梗塞(以下「本件傷病」という。)の療養のため労務に服することができなかったとして、平成16年2月9日から同年6月25日までの期間(以下「本請求期間」という。)について、平成16年7月6日(受付)及び同月29日(受付)の2回に分けて、保険者組合に対し、傷病手当金の支給を請求した。
3 保険者組合理事長は、平成16年10月8日付で、本請求期間における本件傷病は、前回傷病の治療によって生じた合併症であり、これと相当因果関係が認められるところ、前回傷病に対する傷病手当金(支給開始年月日平成12年10月4日)の法定支給期間(1年6月)が平成14年4月3日をもって満了しているとして、請求人に対し傷病手当金を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
4 請求人は、原処分を不服とし、〇〇社会保険事務局社会保険審査官(以下「審査官」という。)に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。
第3 問題点
1 傷病手当金の支給について、法第99条第1項には「被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金……を支給する」と、また、同条第2項には「傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6月を超えないものとする」と規定されている。
2 本件の場合、請求人は、保険者組合が本請求期間については法定支給期間(1年6月)を超えた請求であるとして、傷病手当金を支給しないとしたことを不服としているのであるから、本件の問題点は、請求人の本件傷病が前回傷病と同傷病又はこれにより発した疾病でないと認められるかどうかということである。
第4 審査資料
 「(略)」
第5 事実の認定及び判断
1 前記審査資料を総合すると、次の事実が認められる。
⑴ 請求人は、腹腔内リンバ節腫脹を認め、悪性リンパ腫との診断の下、平成12年9月21日から診療を開始し、平成12年10月4日から平成13年4月15日までの期間、療養のため労務不能であったとして傷病手当金を受給したが、化学療法により同腫脹はほぼ消失し、その後は、職場(生産管理業務)に復帰して、3ないし4か月に1回程度血液化学的検査、画像診断等を受けながら勤務していた。 2年後の平成15年6月頸部リンバ節腫大により同リンパ節摘出術を受け、同年7月及び8月には入院、抗悪性腫瘍剤による化学療法等を受け、退院後も外来で同様の治療を継続しながら勤務していたところ、平成16年2月本件傷病を合併し、入院治療を受けざるを得なくなり、この療養のため労務に服することができなかったとして、本請求期間に係る傷病手当金の支給を請求した(資料1ないし3)。
⑵ 支給済期間に係る傷病手当金請求書の医師意見欄(記入者:健康保険B病院(以下「B病院」という。)・今〇朋○医師)の概要は、次のとおりである(資料1-1)。
・傷病名:悪性リンパ腫 
・療養の給付を開始した年月日:平成12年9月21日 
・労務不能と認めた期間:平成12年10月1日から平成13年4月15日まで 
・診療実日数:110日間(入院:16日間) 
・傷病の主症状及び経過概要:腹腔内リンバ節腫脹を認めたが、化学療法によりほぼ消失している。
⑶ 本請求期間に係る傷病手当金請求書の医師意見欄(記入者:B病院・卯○規○医師(以下「卯○医師」という。))の概要は、次のとおりである(資料1-2)。
・傷病名:心不全・脳梗塞 
・労務不能と認めた期間:平成16年2月9日から同年6月25日まで 
・診療実日数:135日間(人院:134日間) 
・傷病の主症状及び経過概要:平成16年2月より呼吸困難あり、増悪、 2月9日外来受診、心不全認め人院(2月13日)、利尿剤、強心剤等にて加療、2月15日脳梗塞発症、血管拡張剤などの投与、左上下肢マヒ残存に対し現在リハビリ中。
⑷ 資料3-1の診療報酬明細書によると、平成13年5月から平成15年5月までの間は、3ないし4か月に1回程度の受診頻度で、TP、BUN、G0T、GPT等の血液化学検査、インターロイキン2受容体精密測定、コンピューター断層診断等を行っている。平成15年6月は頸部リンパ節摘出術施行、同年7月及び8月は人院し、アドリアシン、オンコビン、エンドキサン等の抗悪性腫瘍剤等の投与があり、同年9月以降平成16年1月までの間も毎月1ないし3回通院、ビノルビン、フィルデシン、エンドキサン等の抗悪性腫瘍剤等の投与、血液化学的検査等が行われている。また、資料3-2の調剤報酬明細書によると、平成13年5月から平成15年5月までの間において、平成13年5月に合成抗菌剤、同年6月及び平成15年5月に胃腸薬が処方されているのみである。
⑸ 卯○医師は、悪性リンパ腫の治療薬であるアドリアシン(平成 12年10月~平成13年3月)、ビノルビン(平成15年7月~平成16年1月)の使用により心筋障害が生じ、心不全に至り、それに伴って脳梗塞がひきつづき発症したものであり、心不全・脳梗塞は悪性リンバ腫の治療によって生じた合併症であると考える旨の回答をしている(資料4)。
⑹ 資料2及び資料5によると、請求人は、平成13年5月から平成15年5月までの期間は、就労に関して格別の配慮を受けること無しに、通常に勤務し、従前とほぼ同水準の給料が支払われている。
2 前記認定の事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
⑴ 前記1の⑸で認定したとおり、請求人に係る本請求期間の本件傷病は、前回傷病の治療のために用いた薬剤により発症した合併症であり、医学的には前回傷病により発した疾病であることは明らかである。
⑵ ところで、社会保険の運用上、過去の傷病が治癒したのち再び悪化した場合は、再発として過去の傷病とは別傷病とし、治癒が認められない場合は、継続として過去の傷病と同一傷病として取り扱われるが、医学的には治癒していないと認められる場合であっても、軽快と再度の悪化との間にいわゆる社会的治癒に相当する一定の期間が認められる場合には、再発として取り扱われるものとされている。
⑶ そこで、前回傷病による傷病手当金の支給済期間終了後、本件傷病により労務不能となった本請求期間までの間に社会的治癒に相当する期間があったかどうか検討する。
請求人は、平成13年5月から平成15年5月までの間は、格別の治療を受けることもなく、3ないし4か月に1回程度の血液化学的検査、画像診断等による経過観察を受けながら、従前同様の業務に通常勤務をしていたのであるから、同人には、少なくとも当該2年間の社会的治癒に相当する期間があったものと認めることが相当と判断する。
⑷ そうすると、原処分は妥当ではなく、取り消さなければならない。
以上の理由によって、主文のとおり裁決する。

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