代理・代行による審査請求事件~容認事例~

平成27年(健)第〇〇〇〇号  平成28年8月31日裁決

             主      文
後記「理由」欄の第2の2記載の原処分を取り消す。

             理      由
第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、健康保険法(以下「法」という。)による傷病手当金の支給を求めるということである。
第2 再審査請求の経過
1 請求人は、うつ病(以下「当該傷病」という。)の療養のため、平成27年5月25日から平成27年8月20日までの期間(以下「本請求期間」という。)について、労務に服することができなかったとして、平成27年9月2日(受付)、〇〇〇健康保険組合(以下「保険者組合」という。)に対し、傷病手当金の支給を請求した。
2 保険者組合は、平成27年9月9日付で、請求人に対し、理由を「傷病手当金の支給される期間は、同一の疾病または負傷およびこれにより発した疾病に関し、その支給開始日から起算して1年6ヶ月となっております(健保法第99条)。更に、当健保独自の延長傷病手当金付加金の支給される期間は、支給開始日から起算して1年6ヶ月となっております(〇〇〇健保組合規約第58条)。また、以前支給した傷病手当金給付期間以降、今回請求時まで関連する診療および投薬が継続していることから、同一の疾病または負傷およびこれにより発した疾病と判断しました。」とし、傷病手当金支給開始年月日を平成18年10月5日、傷病手当金支給終了年月日を平成20年4月4日、延長傷病手当金付加金支給開始年月日を同年4月5日、延長傷病手当金付加金支給終了年月日を平成21年10月4日として、本請求期間について、傷病手当金及び延長傷病手当金付加金(以下、併せて「傷病手当金等」という。)を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服として、社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。
第3 問題点
1 傷病手当金の支給については、法第99条第1項に「被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金・・・・を支給する」と規定され、また、同条第2項には、「傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6月を超えないものとする」と規定されている。
また、保険者組合規則第57条第1項には、「被保険者が法第99条の規定により傷病手当金の支給を受けるときは、その支給を受ける期間、傷病手当金付加金として1日につき、被保険者の標準報酬日額の100分の85から傷病手当金の額を控除した額に相当する額を支給する。」と規定され、同規約第58条第1項には「法第99条の規定により傷病手当金の支給を受ける被保険者が法第99条第2項の規定による期間を経過したことにより、その支給を受けられなくなった場合において、当該期間の経過後同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関し、療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができない期間、延長傷病手当金付加金として、1日につき被保険者の標準報酬日額の100分の85に相当する額を支給する。」と規定され、同条第3項には、延長傷病手当金付加金は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関し、「延長傷病手当金付加金の支給を始めた日から起算して1年6カ月を経過したとき」は、支給しない旨規定されている。
2 本件の場合、保険者組合が、第2の2記載の理由で原処分をしたことに対し、請求人は、これを不服とし、平成22年9月から平成27年5月に症状再燃するまでの薬物療法は予防的投薬の範ちゅうに該当し、平成21年3月から平成27年4月までのおおむね6年間については、通常勤務していたとし、社会的治癒と認めるべき状況が存在したとして、当該傷病は前回傷病手当金等の支給対象となった傷病(以下「既決傷病」という。)とは別傷病として取り扱うべきであると主張しているのであるから、本件の問題点は、請求人の主張が認められないかどうかであり、本請求期間について、当該傷病の療養のため労務に服することができなかったと認められるかどうかである。
第4 審査資料
 「(略)」
第5 当審査会の判断
1 「略」
2 上記の認められた事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
⑴ 本件において検討すべきは、㋐平成21年3月から平成27年4月までの期間に、社会的治癒と認められる期間が存在したか否か、上記㋐が認められた場合は、㋑本請求期間について、当該傷病による療養のため労務不能であったか否かであるところ、法第99条第2項に規定されている「同一疾病」とは、一つの疾病の発症から治癒までをいうものであり、断続して療養を受けても同一疾病の継続しているものは一疾病とし、医師の付した病名が異なる場合でも、疾病そのものが同一であることが明らかな場合は、同一疾病に該当するとされている。
また、ここでいう治癒とは、医学的に厳密な治癒の他、社会的治癒を含むとされている。
社会的治癒とは、医学的判断としてはいまだ治癒したとはいえない場合でも、臨床的に症状がなくなり、あるいは安定して、予防的治療の範囲を超える治療や投薬を要しない状態であって、かつ、このような状態が相当期間継続し、その間一般人と同様、労務に服することができた場合には、疾病が社会的に治癒したとみる考え方である。
㋐ 資料3によると、請求人は、診療開始日を平成10年5月29日とするうつ病で平成20年1月から平成22年8月まで、継続してY診療所に通院し、通院精神療法(注:平成20年5月からは通院・在宅精神療法とされている。)を受け、平成21年1月分からは抗うつ剤のジ〇イ〇ロ〇ト50mg錠2錠及びレ〇リ〇50mg錠1錠、抗不安剤のセ〇ラ〇5mg錠(注:レ〇ソ〇ン錠の後発品)1錠、睡眠剤としてハ〇シ〇ン0.25mg錠2錠、及びマ〇ス〇10mg錠1錠が処方され、時に抗うつ剤のジ〇イ〇ロ〇ト50mg錠あるいは睡眠剤の投与量の増減が認められるものの、基本的に同系統の薬剤が投与されていることが認められる。
資料4によると、請求人は、平成22年9月からIクリニックに転医し、平成27年5月まで継続して、ほぼ、月に1日(注:平成22年9月、平成23年4月、平成24年3月、平成25年3月、平成26年3月、同年12月、平成27年3月及び同年5月は2日)定期的に受診し、通院・精神療法と薬物療法を受けている。そして、平成22年9月以降Wクリニックも受診し、診療報酬明細書の平成22年9月分、平成23年10月分、平成24年1月分、同年10月分、平成25年1月分、同年10月分、平成26年3月分、同年4月分、同年5月分、同年9月分、平成27年3月分及び同年5月分によると自律神経失調症に対して、抗不安剤のグ〇ン〇キ〇50mg錠3錠/日の処方を受けていることが認められる。
Iクリニックで処方されている薬剤は、基本的には抗うつ剤のジ〇イ〇ロ〇ト50mg錠及びレ〇リ〇25mg錠、抗不安剤のレ〇ソ〇ン5mg錠、時に応じグ〇ン〇キ〇50mg錠、睡眠剤のハ〇シ〇ン0.25mg錠、ロ〇プ〇ル1mg錠等で、Y診療所において処方されていた薬剤と同系統のものである。
これらの薬剤の一日量についてみるに、抗うつ剤のジ〇イ〇ロ〇ト50mg錠は平成22年9月分では2錠であった(注:同年10月分から同年12月分までは1錠に減薬)が、平成23年5月分から平成27年4月分までは1錠に減薬され、同時に抗うつ剤のレ〇リ〇25mg錠も中止されている。しかし、同年5月分からジ〇イ〇ロ〇ト50mg錠は2錠に増薬されている。
抗不安剤については、レ〇ソ〇ン5mg錠1錠が処方され、時々グ〇ン〇キ〇50mg錠3錠が処方されている。グ〇ン〇キ〇50mg錠は基本的には自律神経失調症に対して処方されたものと推察されるが、うつ病においても不安状態を解消させるために用いられることが多い薬剤であることから、請求人の病態に対して処方されたものと考えられ、Iクリニック及びWクリニックにおいても、時に応じ処方されていることが認められる。
眠剤については、平成22年9月分以降平成24年4月分まではハ〇シ〇ン0.25mg錠1錠とロ〇プ〇ル1mg錠2錠であったが、平成24年5月分以降不眠時に屯用としてハ〇シ〇ン0.25mg錠1錠が処方され、平成25年11月分から平成26年11月分まではル〇ス〇1mg錠1錠が追加され、同年12月分以降平成27年4月分まではハ〇シ〇ン0.25mg錠2錠、ロ〇プ〇ル1mg錠2錠に増薬されており、請求人は、眠剤を服用しながら、就労していたことがうかがわれる。
これらの平成22年9月分以降平成27年5月分までの期間に請求人に処方された薬剤が予防的投薬の範ちゅうのものか否かについては、薬剤に対する感受性に個人差があるため、一概に投与された薬剤の種類や投与量によって判断することは困難である。しかし、上述のとおり、Y診療所から処方されていた薬剤と同系統の薬剤であるものの、抗うつ剤に関しては平成23年5月分から平成27年4月分までは、ジ〇イ〇ロ〇ト50mg錠は1錠に減薬され、レ〇リ〇25mg錠は中止されていることが認められのであるから、請求人のうつ病の状態が、投薬と在宅・通院精神療法の治療により安定していた時期あったと考えることは可能である。
㋑ 次に、請求人が復職した平成21年3月以降の就労状況について検討するに、資料6、7によると、平成21年3月から平成23年12月までの間においては、請求人の1か月当たりの積立休暇(私傷病のため3日以上連続して休む場合に取得できる休暇)の取得日数は約0.2日にとどまり、年次有給休暇と積立休暇を合計した1か月当たりの取得日数も2日未満である。そして、請求人は平成22年12月及び平成24年4月には職務の等級も昇格しているのであるから、請求人は平成21年3月から平成23年12月まではおおむね健常人と同程度の勤務をしていたというべきである。
以上の投薬、治療及び勤務の状況を考慮すると、請求人の既決傷病は、復職した平成21年3月ころから平成23年12月ころまでの間は社会的な治癒の状況にあったと認めるのが相当である。そうすると、当該傷病は既決傷病と同じうつ病であることは明らかであるものの、本請求期間については、社会的治癒後の再燃であるとして、既支給期間のうつ病とは別疾患として取り扱うのが相当である。
㋒ 本請求期間について、当該傷病の療養のため労務に服することができなかったかどうかについて検討するに、資料1によると、本請求期間について、「抑うつ気分、易疲労感、気力低下といったうつ症状が持続している。症状の回復は久しく療養を要した。」とされているのであるから、労務不能であると認められる。
⑵ 以上によれば、請求人には、本請求期間について、労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から当該傷病の療養のため労務に服することができなかったとして、傷病手当金を支給しなければならない。よって、原処分は妥当でないので、これを取り消すこととし、主文のとおり裁決する。

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