代理・代行による審査請求事件~容認事例~

平成27年9月28日決定  〇〇厚生局社会保険審査官

             主      文
全国健康保険協会〇〇支部長が、審査請求人に対し、平成26年12月12日から平成27年3月31日までの期間、健康保険法による傷病手当金を支給しないとした平成27年5月14日付の処分は、これを取り消す。

             理      由
第1 審査請求の趣旨
審査請求人(以下「請求人」という。)の審査請求の趣旨は、主文と同旨の決定を求めるということである。
第2 審査請求の経過
1 請求人は、平成24年7月9日から平成24年10月9日までの期間(以下、「既決支給期間」という。)、原発不明癌及び右頚部リンパ節転移(以下、併せて「既決傷病」という。)の療養のため労務に服することができなかったとして、健康保険法(以下「法」という。)による傷病手当金(以下、単に「傷病手当金」という。)の支給を受けていた。
2 請求人は、平成27年4月13日(受付)、平成26年12月12日から平成27年3月31日までの期間(以下「本件請求期間」という。)、下咽頭癌(以下「当該傷病」という。)の療養のため、 労務に服することができなかったとして、全国健康保険協会に対し、傷病手当金の支給を請求した。
3 全国健康保険協会〇〇支部長は、平成27年5月14日付で請求人に対し、本件請求期間について、法定給付期間(1年6月)を超えた請求であるためとして、傷病手当金を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
4 請求人は、原処分を不服として、平成27年7月9日(受付)、当審査官に対し、審査請求をした。
第3 問題点
1 傷病手当金の支給については、法第99条第1項に、「被保険者(任意継続被保険者を除く。法第102条において同じ。)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金として、…(中略)… を支給する」と規定され、さらに、同条第2項において、「傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病(以下「同一関連疾病」という。)に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6月を超えないものとする。」と規定されている。
2 本件の場合、全国健康保険協会が、本件請求期間について、当該傷病と既決傷病は関連性のある継続疾病であり、法定給付期間(1年6月)を超えた請求であるためとして傷病手当金を支給しないとした処分に対し、請求人はこれを不服としているのであるから、本件の問題点は、まず、当該傷病と既決傷病は同一関連疾病と認められるかどうかであり、次に、同一関連疾病と認められる場合には、既決支給期間最終日から本件請求期間開始日までの期間に、いわゆる社会的治癒に相当する期間があったと認められるかどうかである。
第4 審査資料
 「(略)」
第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 前記認定された事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
⑴ 同一関連疾病かどうかについて判断する。
傷病手当金の支給期間については、法第99条第2項において、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6月を超えないものとする旨が規定され、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病の取り扱いについては、一回の疾病又は負傷で治癒するまでとされている。さらに、再発とは「被保険者が医師の診断により全治と認定されて療養を中止し、自覚的にも他覚的にも症状がなく勤務に服した後の健康状態も良好であったことが確認される場合は再発とみなす。」(昭和26年保文発第5698号)とされている。
資料1によると、H大学病院岸〇真〇子医師(以下「岸〇医師」という。)は、既決傷病に対し治療を行い経過観察していたが、平成26年9月のPET-CTにて下咽頭に集積を認め、生検を施行したところ、検査医の結果当該傷病であると診断したとし、入院にて化学療法、放射線治療を行い、現在外来にて経過観察中としている。また、労務不能と認めた医学的所見について「咽頭の状況がまだひどく労務不能」としている。
また、資料2によれば、岸〇医師は、既決傷病と当該傷病との因果関係及び継続性について「前回と因果関係がある」及び「前回からの継続疾病である」と回答し、判断理由について「原発不明癌にて経過をみていたところ、下咽頭に癌がでてきたため原発が判明した。」と回答し、また、既決支給期間終了後から本件請求期間開始までの期間における治療・投薬状況について「中断期間なし」、寛解とみなす期間の有無については「寛解とみなす期間なし」と回答したことから、当該傷病と既決傷病は同一関連疾病と判断する。
⑵ 次に、いわゆる社会的治癒について判断する。
社会保険の運用上、過去の傷病が治癒した後再び悪化した場合は、再発として過去の傷病とは別傷病として取り扱い、治癒が認められない場合は、過去の傷病と同一傷病が継続しているものとして取り扱われるところ、医学的には治癒していないと認められる場合であっても、軽快と再度の悪化との間に、いわゆる「社会的治癒」があったと認められる場合は、再発として取り扱われるものとされている。そして、いわゆる「社会的治癒」と認め得る状態としては、相当の期間にわたって医療(予防的治療を除く。)を行う必要がなくなり、通常の勤務に服していたことが認められる場合とされている。
資料3によると、請求人は、平成24年10月から平成26年11月までの間は、化学療法及び放射線治療などの治療を受けることもなく、1ないし2か月に1回程度受診し、PET-CT検査、画像診断等による経過観察を受けていたところ、平成26年12月には当該傷病と診断、入院にて化学療法、放射線治療が施行されている。
請求人は、資料4によると、「平成24年10月22日からの復職にあたり、リハビリ期間はありませんでした。また、主治医から就労の制限(残業の制限)なども特にありませんでした。業務の種別は、休職前から配送業務(トラックによる自動車部品の運搬)に従事、復帰後も異動はありませんでした。」と申し立てている。また、資料5及び資料6によると、平成24年11月から平成26年12月までの期間、欠勤は「0日」とされ、平成24年11月分から平成26年12月分までの期間、欠勤による基本給の減額は認められず、歩合給は平成25年2月分から平成26年12月分までの期間、通勤手当は平成25年3月分から平成26年12月分までの期間、毎月支給されていることが確認できる。
そうすると、平成24年11月から平成26年12月までの約2年間について、通常の勤務ができ、それに対する報酬が支給されていたことから、この期間について、いわゆる社会的治癒に相当する期間があったと認めることができる。
⑶ 以上のことから総合的に判断すると、請求人の当該傷病及び既決傷病は同一関連疾病と認められるところ、既決期間最終日から本申請期間開始日までの期間に、いわゆる社会的治癒に相当する期間があると認められることから、当該傷病は既決傷病治癒後の再発であると認められる。したがって、本件請求期間は、法第99条第2項による1年6月を超えた請求であると認めることはできない。
⑷ そうすると、原処分は妥当ではなく、取り消されなければならない。
以上の理由によって、主文のとおり決定する。

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