代理・代行による審査請求事件~容認事例~

平成29年5月24日決定  〇〇厚生局社会保険審査官

             主      文
全国健康保険協会〇〇支部長が、審査請求人に対し、平成28年7月21日から平成29年1月31日までの期間、健康保険法による傷病手当金を支給しないとした平成28年11月22日付、平成29年3月22日付の後記第2の3の処分は、これを取り消す。

             理      由
第1 審査請求の趣旨
審査請求人(以下「請求人」という。)の審査請求の趣旨は、主文と同旨の決定を求めるということである。
第2 審査請求の経過
1 請求人は、頚椎椎間板ヘルニア、頚部神経根症(以下「前回傷病」という。)の療養のため労務に服することができなかったとして、平成26年12月20日から平成27年5月12日までの期間(以下「既決支給期間」という。)について、全国健康保険協会から、健康保険法による傷病手当金(以下単に「傷病手当金」という。)を受給した。
2 請求人は、頚部神経根症、頚椎椎間板ヘルニア、および頚椎椎間板性椎間孔狭窄症(以下「当該傷病」という。)の療養のため、平成28年7月21日から同年9月30日までの期間、及び平成28年10月1日から平成29年1月31日までの期間(以下「本件請求期間」という。)、労務に服することができなかったとして、平成28年10月31日(受付)、平成29年3月3日(受付)、全国健康保険協会に対し、傷病手当金の支給を請求した。
3 全国健康保険協会〇〇支部長は、平成28年11月22日付、平成29年3月22日付で、請求人に対し、本件請求期間については、法定給付期間(1年6カ月)を超えた請求であるためとして、傷病手当金を不支給とする旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
第3 問題点
1 傷病手当金の支給については、法第99条第1項に、「被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する」と規定され、さらに、同条第4項において、「傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病(以下「同一関連疾病」という。)に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6月を超えないものとする。」と規定されている。
2 本件の場合、全国健康保険協会〇〇支部長が、本件請求期間について、当該傷病と前回傷病は関連性のある継続疾病であり、法定給付期間(1年6月)を超えた請求であるためとして傷病手当金を支給しないとした処分に対し、請求人はこれを不服としているのであるから、本件の問題点は、まず、当該傷病と前回傷病は同一関連疾病と認められるかどうかであり、次に、同一関連疾病と認められる場合には、既決支給期間最終日から本件請求期間開始日までの期間に、いわゆる社会的治癒に相当する期間があったと認められるかどうかである。
第4 審査資料
 「(略)」
第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 前記認定された事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
⑴ 健康保険法第99条第4項に規定されている「同一の疾病または負傷」とは、「一回の疾病又は負傷で治癒するまでをいうが、治癒の認定は必ずしも医学的判断のみによらず、社会通念上治癒したものと認められ、症状をも認めずして相当期間就業後同一病名再発のときは、別個の疾病とみなす。通常再発の際、前症の受給中止時の所見、その後の症状経過、就業状況等調査の上認定する。」(昭和29年3月保文発第3027号)(昭和30年2月24日保文発第1731号)とされており、「これにより発した疾病」とは、「同一系統のものであるか否かを問わず、ある傷病を原因として発した疾病をいうが、前傷病が一旦治癒した後これを原因として発した疾病を含まない。」(昭和5年7月17日保規第351号)とされ、この場合、直接的、医学的因果関係があることが必要である。すなわち、第一の疾病がなければ第二の疾病はおこり得なかったであろうという密接な因果関係が、その間に認められなければならないとされ、また、「医師の附した病名が異なる場合でも疾病そのものが同一なること明らかなときは同一の疾病に該当する。」(昭和4年8月30日保規第45号)とされている。
⑵ 資料1によると、請求人は、頚椎椎間板ヘルニアのため平成26年12月20日から平成27年1月5日まで、頚部神経根症のため同年1月6日から同年5月12日までの期間、傷病手当金の支給を受けていることが認められる。また、全国健康保険協会〇〇支部長は、当該傷病に係る傷病手当金の支給の起算日を前回傷病による支給開始日である平成26年12月20日、法定満了日を平成28年6月19日として、本件請求期間については、法定支給期間を超えた請求であるため不支給としていることが認められる。
⑶ 資料2によると、療養担当者であるH病院松〇孝〇医師(以下「松〇医師」という。)は、請求人の当該傷病の療養の給付開始年月日を、頚部神経根症は平成27年1月6日、頚椎椎間板ヘルニアは平成28年7月20日、頚椎椎間板性椎間孔狭窄症は平成28年10月14日とし、本件請求期間における主たる症状および経過、治療内容等は、「以前より当科加療中。上記に対し2016年9月5日入院、牽引・ブロック施行、9月21日退院。退院後通院加療、自宅療養を要した。10月10日再入院、10月12日手術施行。11月8日退院となった。退院後、通院加療、自宅療養を要した。」と記載し、いずれも労務不能であったとしていることが認められる。
⑷ 資料3によると、請求人は、平成27年5月から従来の職種(看護師業務)に復職し、平成28年7月までの間において、欠勤することなく深夜勤務や準夜勤勤務も行いながら通常に勤務していることが認められる。
⑸ 資料4及び資料5によると、請求人は、頚椎椎間板ヘルニアのため平成26年12月にS病院を受診し、消炎鎮痛等処置とコ〇ス〇ン錠(末梢性神経障害改善剤)、リ〇カ〇プ〇ル(神経障害性疼痛治療剤)の投薬を受け、平成27年1月に頚部神経根症のためH病院に入院し、同月26日に骨移植術、脊椎固定術等の前方椎体固定2椎間(C5~C7)手術を受けて同年2月6日に退院、退院後は平成27年3月、同年5月から7月、平成28年2月及び3月にそれぞれ1日通院し、診察と頚椎の画像診断を受けている。
また、請求人は、平成28年7月22日を診療開始日とする頚椎椎間板ヘルニアを主病としてH病院に受診し、画像診断、CT撮影(頚椎)、神経根ブロック等の治療に5日間、8月に3日間の通院、9月は17日間入院しトリガーポイント注射、腕神経叢ブロック治療と麻酔科で左C8神経根ブロック治療が施行され、同年10月12日には、C7/T1神経根症に対する頚椎前方固定術が行われており、平成29年1月まで毎月受診し、本件請求期間にリ〇カ〇プ〇ル、ト〇マ〇ル錠及びワ〇ト〇ム錠(慢性疼痛治療剤)の投薬がされていることが認められる。
⑹ 資料6によると、松〇医師は、請求人の前回傷病の病状について、平成26年12月12日より左上肢痛を生じ、MRIにてC5/6/7ヘルニアを認める。平成27年1月26日にC5/6/7前方固定術を施行、左上肢痛は消失し術後3か月で職場復帰が可能となった。以後、1年3か月は症状はなかったとし、当該傷病の病状について、平成28年7月19日寝違えた頚部痛と左上肢痛が出現、同年9月21日に選択的神経根ブロック(左C8)にて痛みは一時的に軽快するも長期の効果はえられず、同年10月12日にC7/T1前方固定術(以前のプレートは抜去)以後、左上肢痛は消失した。以上より、平成27年1月26日に手術で治療したのは左C6,7神経根症であり、以後は消失している。平成28年10月12日に手術で治療したのは左C8神経根症で、これも痛みは消失している。よって、前回と今回の手術の治療対象は別であると考えると意見し、参考として、「平成28年10月26日頚椎後方固定(C5/6/7)に施行したが、これはプレート抜去後のC5/6/7前方固定部にわずかに動きが生じ、偽関節を疑ったため、追加手術とした。特に愁訴があるために行ったのではなく(既に左上肢痛は消失している)、画像上の不安定性に対して施行したものであるとコメントしていることが認められる。
⑺ 資料7によると、松〇医師は、請求人が前回の術後3か月で職場復帰が可能となり、以後1年3か月は症状はなかったことについて、社会的治癒した期間があると判断していることが認められる。
⑻ このようにみてくると、請求人は、前回傷病の治療のため平成27年1月26日H病院において頚椎第5~第7前方固定術が施行され、既決支給期間から本件請求期間までは、定期的にレントゲンやCTの検査を行っていたところ、当該傷病について松〇医師は、平成28年7月19日寝違え疼痛が出現し同年9月21日に神経根ブロック(左C8)を行うも長期の効果がないため、同年10月12日に頚椎第7~胸椎第1に前方固定術を施行し、前回と今回の手術の治療対象とした頚椎部位は異なり、特段の直接的医学的な因果関係があるとされていないことから、主治医の用いた病名が同じとしても、当該傷病が前回傷病と同一疾病又はこれにより発した疾病であると認めることはできない。
また、請求人は、前回傷病に対しての治療後の平成27年5月から職場に復帰しており、その後経過観察のために定期的にH病院に受診していたのであって、頚椎部位の画像診断以外に投薬等もなく、格別の症状も認められず、1年3か月の間通常に看護師業務に服している期間が認められ、このような状態を松〇医師は、社会的治癒と認められる期間があったとしていることから、既決支給期間と本件請求期間との間には、社会的治癒があると認めるのが相当と判断する。
⑼ そうすると、本件請求期間に係る傷病手当金については、法定支給期間を超えた請求であることを理由として支給しないとした原処分は妥当ではなく、これを取り消さなければならない。
以上の理由によって、主文のとおり決定する。

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