代理・代行による審査請求事件~容認事例~

平成29年6月23日決定  〇〇厚生局社会保険審査官

             主      文
〇〇健康保険組合理事長が、審査請求人に対して行った、後記第2の3の処分は、これを取り消す。

             理      由
第1 審査請求の趣旨
審査請求人(以下「請求人」という。)の審査請求の趣旨は、健康保険法(以下「法」という。)による傷病手当金(以下、単に「傷病手当金」という。)及び〇〇健康保険組合規約(以下「本件規約」という。)による傷病手当金付加金の支給を求めるということである。
第2 審査請求の経過
1 請求人は、気分障害・うつ病(以下「前回傷病」という。)の療養のため労務に服することができなかったとして、平成23年4月22日から平成24年12月25日までの期間(以下「既決支給済期間」という。)について、〇〇健康保険組合(以下「保険者組合」という。)から傷病手当金、本件規約による傷病手当金付加金及び延長傷病手当付加金を受給した。
2 請求人は、うつ病(以下「当該傷病」という。)の療養のため、平成28年11月24日から同年12月31日までの期間(以下「本件請求期間」という。)、労務に服することができなかったとして、平成29年1月10日受付、保険者組合に対し、傷病手当金及び本件規約による傷病手当金付加金(以下、併せて「傷病手当金等」という。)の支給を請求した。
3 保険者組合理事長は、平成29年1月13日付で、請求人に対し、本件請求期間については、法定給付期間を超えた請求である(前回傷病については、既決支給済期間傷病手当金等受給後も継続して診療を受けている状態であり、一旦社会的治癒となり新たに発生した傷病であると判断できない。)ためとして、傷病手当金等を不支給とする旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
第3 問題点
1 傷病手当金の支給については、法第99条第1項に、「被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する」と規定され、さらに、同条第4項において、「傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病(以下「同一関連疾病」という。)に関しては、その支給を始めた日から起算して1年6月を超えないものとする。」と規定されている。
そして、本件規約は、傷病手当金付加金に関し、第42条第1項において、被保険者が法第99条第1項の規定により傷病手当金の支給を受けるときは、その支給を受ける期間、傷病手当金付加金を支給すると規定し、延長傷病手当金付加金に関し、第43条第1項において、法第99条第1項の規定により傷病手当金の支給を受ける被保険者が法第99条第4項の規定による期間を経過したことによりその支給を受けられなくなった場合において、当該期間の経過後同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関し、療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができない期間、延長傷病手当金付加金を支給すると定め、同条第5項において、延長傷病手当金付加金は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関し、延長傷病手当金付加金の支給を始めた日から6か月を限度とし、法定給付満了の翌日から起算して1年6か月経過したときは、支給しないと定めている。
2 本件の場合、保険者組合理事長が、本件請求期間について、当該傷病と前回傷病は関連性のある継続疾病であり、法定給付期間(1年6月)を超えた請求であるためとして傷病手当金を支給しないとした処分に対し、請求人はこれを不服としているのであるから、本件の問題点は、まず、当該傷病と前回傷病は同一関連疾病と認められるかどうかであり、次に、同一関連疾病と認められる場合には、既決支給期間最終日から本件請求期間開始日までの期間に、いわゆる社会的治癒に相当する期間があったと認められるかどうかである。
第4 審査資料
 「(略)」
第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 前記認定された事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
⑴ 健康保険法第99条第4項に規定されている「同一の疾病または負傷」とは、「一回の疾病又は負傷で治癒するまでをいうが、治癒の認定は必ずしも医学的判断のみによらず、社会通念上治癒したものと認められ、症状をも認めずして相当期間就業後同一病名再発のときは、別個の疾病とみなす。通常再発の際、前症の受給中止時の所見、その後の症状経過、就業状況等調査の上認定する。」(昭和29年3月保文発第3027号)(昭和30年2月24日保文発第1731号)とされている。
また、「これにより発した疾病」とは、「同一系統のものであるか否かを問わず、ある傷病を原因として発した疾病をいうが、前傷病が一旦治癒した後これを原因として発した疾病を含まない。」(昭和5年7月17日保規第351号)とされている。
そして、「…1年6月」とは、1年6カ月分の傷病手当金が支給されるということではなく、1年6カ月間という期間(その間に労務可能となった期間を含む。)とされている。
⑵ 請求人の当該傷病と前回傷病の関連性について検討する。
資料1によると、請求人は、前回傷病の療養のため既決支給済期間に係る傷病手当金等の支給を受けていることから、平成24年10月21日もって、法定給付期間の1年6月を満了していることが認められる。 資料2によると、U病院国〇昌〇医師(以下「国〇医師」という。)は、当該傷病の発病年月日を平成28年11月頃、診療開始日を平成28年11月24日としており、本件請求期間中における主たる症状および経過、診療内容、検査結果、療養指導等については「抑うつ気分、希死念慮のためKメンタルクリニックからの紹介で、2016年11月24日当院入院となった。抗うつ薬を主剤とする薬物療法ならびに精神療法・心理療法を展開している。」とし、労務不能と認められた医学的な所見を「入院治療を要するうつ状態にあり労務不能と判断した。」としている。
資料3及び資料4によると、請求人は、傷病名うつ病(主)のため、平成23年4月25日からU病院で治療を開始し、その後、平成26年2月22日にKメンタルクリニックへ転医し、平成28年11月24日に宇治おうばく病院に入院していることが認められるところ、既決支給済期間から本件請求期間までの間(平成24年12月26日から平成28年11月23日までの期間であって、以下「当該期間」という。)の診療回数は、一月ないし2か月に1回程度で、診療内容は、通院精神療法(30分未満)と、薬物療法は、抗うつ剤リ〇レ〇ク〇錠15mg1錠(1日1回就寝前)、催眠鎮静剤ア〇バ〇錠10mg1錠(1日1回就寝前)及びメ〇ラ〇ク〇錠1mg1錠(1日1回就寝前)が、途切れることなく定期的に処方されていることが認められる。
資料5-1によると、国〇医師は、前回傷病と当該傷病について、「因果関係を有する継続した傷病であるとみます。精神医学的には、当該傷病を前回傷病が再燃したものと表現することがより適切と考えます。」と回答し、資料5-2によると、Kメンタルクリニック露〇美〇医師(以下「露〇医師」という。)は、前回傷病と当該傷病について、「寛解し社会的治癒となった後の再発。」と回答している。
このようにみてくると、請求人は、発病日を平成28年11月頃とする当該傷病により、同月24日に治療を開始しているが、当該期間において、うつ病(主)による定期的な通院精神療法と抗うつ剤等が処方されており、国〇医師と露〇医師の回答も併せると、前回傷病と当該傷病は、因果関係を有する継続した傷病で、同一疾病であると判断する。
⑶ 次に、精神疾患にあっては、外的あるいは内的ストレス、肉体的・精神的疲労などで症状が再発することがあるため、医学的には治癒とはいわず、寛解という言葉が用いられるが、上記⑴のとおり、法の解釈運用上、医学的には当初の傷病が治癒していない場合であっても、社会的治癒が認められるときは、再度発病したものとして取り扱われる。
この社会的治癒があったと言い得るためには、相当の期間にわたって、前回傷病につき医療(予防的医療等を除く。)を行う必要がなくなり、その間に通常の勤務に服していることが必要とされている。したがって、薬治下にある場合や、単に症状がなく一般人と同様の勤務をして相当期間経過したという状態だけでは、社会的治癒を認めることができないとされている。
⑷ そこで、請求人の当該傷病と同一疾病とされる前回傷病について、当該期間に社会的治癒があったかどうかを検討する。
資料5-1によると、国〇医師は、平成24年12月26日以後、Kメンタルクリニックに転医するまでに前回傷病が寛解した期間があったかどうかについて、「当院最終受診日である2014年1月17日まで寛解に至っていなかったものとみますが、同日付診療記録には同年1月21日に予定される職場での面談を経て就業制限が終了する見込みである旨が記載されており、就業制限終了を前提にKメンタルクリニックへの転医が予定されたことから明示的ではないにせよ、当時の担当医が就業制限は不要であると判断したと看做した上で、同日をもって寛解に至ったものと考察します。」と回答している。
資料5-2によると、露〇医師は、貴院に転医後、U病院に入院するまでに前回傷病が寛解した期間があったかどうかについて、「2014年2月22日寛解状態で当院に転院。その後2016年10月29日までは6~8週間ごとの定期的通院で、再発予防、寛解維持のための投薬を行っていた。調子が悪化して早めに臨時受診するということはこれまでなく、寛解維持できていた。」と、貴院における薬剤の処方内容や処方量の程度から予防的医療(症状の安定した状態を維持し、再燃を防ぐための投薬)の範疇と考えられるかどうかについて、「再発予防のための維持療法である。」と回答している。
資料5-3によると、請求人は、〇〇〇〇株式会社(以下「当該事業所」という。)に平成24年12月26日より復職しており、ガスの設備調査に従事し、当該期間の勤務状況は、遅刻や早退、欠勤はしておらず、平成25年2月から毎月の残業時間も認められるところ、復職時にあった就業制限(注;就業制限のうち⑤残業以外は、制限はあるものの業務を行う上で特に影響が無い。)については、同年6月13日に一部見直しを経て、平成26年1月24日より全て解除されたことが認められる。
このようにみてくると、請求人は、平成24年12月26日から当該事業所に復職したが、当該期間中も定期的に通院しており、通院精神療法と抗うつ剤等の処方を受けているため、医学的には前回傷病が治癒したとは言えないにしても、国〇医師と露〇医師の回答から、平成26年1月末頃から寛解状態となったことは明らかで、処方内容や処方量も再発予防のための維持療法とされていることをも併せて判断すると、復職後の約4年間は遅刻や早退、欠勤もなく就業できており、全ての就業制限が解除された後も約2年10カ月間の寛解が維持されている本件にあっては、当該期間中における請求人の当該傷病と同一疾病とされる前回傷病について、社会的治癒を認めるのが相当である。
⑸ 以上のことから、当該傷病は、平成28年11月頃から再発したものと認められる。
⑹ そうすると、当該傷病に係る本件請求期間は、前回傷病が治癒せず継続しているとの理由により、傷病手当金等を支給しないとした原処分は妥当ではなく、取り消さなければならない。
以上の理由によって、主文のとおり決定する。

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